2012 Fiscal Year Annual Research Report
低酸素・低栄養の腫瘍微小環境における転写と代謝のクロストーク
Publicly Offered Research
Project Area | Crosstalk of transcriptional control and energy pathways by hub metabolites |
Project/Area Number |
24116509
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大澤 毅 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (50567592)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 低酸素 / 低栄養 / 癌 / 転写 / 代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
癌の増殖と転移には腫瘍微小環境が重要な役割を果たす。我々は、低酸素・低栄養という腫瘍微小環境が癌の悪性化と治療抵抗性を促進することを報告してきた。 我々がこれまでに見出した低酸素・低栄養で発現誘導されるヒストン脱メチル化酵素酵素JHDM1Dの腫瘍細胞内での、特に代謝経路に及ぼす役割についてマイクロアレーおよびChIPシークエンスのゲノムワイドな手法を用いて解析した。その結果、JHDM1Dは、脂質代謝に重要な酵素の発現を直接制御している可能性が示唆された。実際、メタボローム解析からこの経路における代謝産物が低酸素・低栄養下の癌細胞内において顕著に増加していることを発見した。 また、低酸素・低栄養状態での腫瘍細胞はエネルギー代謝が解糖系を中心としたものにシフトすることが予想され、このことが微小環境下での腫瘍細胞の生存に寄与していると考えられている。我々は、低酸素・低栄養において解糖系に依存しない新しい代謝経路が亢進していることを見出した。 上記の知見から、ヒストン修飾酵素によって書き換えられたヒストンコードが転写に与える影響をin vitroのみならず、in vivoでも解析し、癌の悪性化や治療抵抗性などを引き起こす代謝経路や作用機序を明らかにすることを目的とし、低酸素・低栄養に抵抗性な癌細胞に特異的な転写代謝システムを標的とした新しい癌の制御法の開発と、現存する化学療法や血管新生阻害療法との併用において相乗効果が期待できる標的分子の探索など治療への応用のための基盤となる研究を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
低酸素・低栄養に陥った癌細胞は癌の悪性化の促進に寄与することを報告してきたが、そのメカニズムは不明なことが多い。本研究課題の24年度の研究計画と、その達成度について報告する。 【1】低酸素、低栄養状態での癌細胞におけるヒストンコードの解読 低酸素・低栄養時にヒストン脱メチル化酵素(JMJD1A、JHDM1D)などが発現亢進していることから、癌細胞が低酸素・低栄養状態に陥った際にヒストン修飾が変化している可能性は非常に高く、そのヒストンコードの解析は癌悪性化の理解につながるものと考えられる。そこで、本研究ではHeLa細胞を用いて各種ヒストン修飾抗体を用いたChIP-seqを行った。ヒストン修飾はゲノム上でのアクティブな領域(H3K4me3)、サイレントな領域(H3K27me3)と相関があり、発現遺伝子とも相関があることが既に知られている。この両者のプロファイルを行い、癌細胞が低酸素・低栄養に陥った際に活性化あるいは抑制化される領域の抽出および取得された様々なデータのマイニングと解析を行うことができたことから計画(1)は概ね達成されている。 【2】低酸素、低栄養におけるヒストン脱メチル化酵素による転写制御と代謝の解明 低栄養や低酸素・低栄養状態でJHDM1Dの発現が上昇してくることが既に分かっている。そこで、ヒト癌細胞株にJHDM1DのsiRNAを作用させ、低酸素・低栄養培養下での発現や低酸素・低栄養時の代謝物の変動をマイクロアレイとメタボロームの網羅的解析を行った。その結果、癌細胞内の代謝経路におけるJHDM1Dの標的遺伝子を抽出することができたことから計画(2)も概ね達成された。 さらに計画(1)のヒストンプロファイルに加えてメタボロミクス解析と合わせることで、癌細胞の代謝異常におけるヒストン修飾及び修飾酵素の果たす役割について新たな因子や知見を得ることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
おおむね計画通り研究が進んでいることから、今後も当初の研究計画を遂行する。我々はヒト・マウス癌細胞株に共通して低酸素・低栄養で特異的に亢進される特徴的な遺伝子群や代謝経路をマイクロアレイおよびメタボローム解析から発見している。この代謝経路に対するsiRNA/shRNA等による抗腫瘍効果をマウス腫瘍移植実験において解析し分子標的の可能性を検討する。具体的には、エピジェネティック制御により低酸素・低栄養で特異的に誘導される代謝酵素を、siRNAによる特異的な阻害が腫瘍増殖を抑制するかどうか検証する。 また、癌の進展や代謝にこのヒストン修飾因子を含むエピジェネティックスイッチが関連することを発見したが、そのメカニズムの詳細は明らかでない。siRNAによる抑制がin vitroの細胞増殖を抑制しないことを見い出しているため、血管新生因子の発現制御やin vivoの血管新生(CD31)やマクロファージ系細胞(CD11b)の浸潤を抑制する可能性があるか検討する。これらの分子で同様の解析、検討を行う。 具体的には、標的分子候補をsi/shRNAや阻害剤で阻害したヒト癌細胞をヌードマウスの皮下に移植し、既存の抗がん剤との併用において効果を示すか検証する。例えば、抗VEGF中和抗体(Avastin 1mg/kg/week i.p.)、低分子阻害剤(Sutent 10mg/kg/day p.o.)との併用で抗腫瘍効果を測定し、代謝酵素に対するsiRNAや代謝経路の阻害剤によるこれらの因子の特異的阻害がAvastinやSutentなどの血管新生阻害剤との併用でin vivoで相乗的な腫瘍抑制効果をがあるものを明らかにする。
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[Journal Article] Inhibition of histone demethylase JMJD1A improves anti-angiogenic therapy and reduces tumor-associated macrophages2013
Author(s)
Osawa T, Tsuchida R, Muramatsu M, Shimamura T, Wang F, Suehiro J, Kanki Y, Wada Y, Yuasa Y, Aburatani H, Miyano S, Minami T, Kodama T, and Shibuya M
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Journal Title
Cancer Research
Volume: -
Pages: In press
Peer Reviewed
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[Journal Article] Alternative splicing of CD44 mRNA by ESRP1 enhances lung colonization of metastatic cancer cell2012
Author(s)
Yae T, Tsuchihashi K, Ishimoto T, Motohara T, Yoshikawa M, Yoshida GJ, Wada T, Masuko T, Mogushi K, Tanaka H, Osawa T, et al.
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 3
Pages: 883
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] Down’s syndrome candidate region-1 mediates corneal opacity via corneal angiogenesis2012
Author(s)
Osawa T, Nakagawa S, Toyono T, Toyama K, Miura M, Suehiro J, Tanaka T, Usui T, Amano S, Aburatani H, Kodama T, and Minami T
Organizer
The 10th Korea-Japan Joint Symposium on Vascular Biology
Place of Presentation
徳島
Year and Date
2012-12-05 – 2012-12-07
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