2012 Fiscal Year Annual Research Report
マウス初期胚発生過程で細胞死が周辺細胞動態に与える影響の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Cell Community in early mammalian development |
Project/Area Number |
24116704
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山口 良文 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (10447443)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | アポトーシス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、ほ乳類初期胚で生じる劇的な形態形成運動である神経管閉鎖過程において、細胞死(アポトーシス)と細胞増殖が形態形成運動と相関して、どのように生じるのかを解明することを目的としている。具体的には、頭部神経管閉鎖過程のうち、閉鎖運動過程と組織リモデリング過程でのアポトーシスが、周辺生細胞の振る舞いにどのように影響を与え、それが頭部神経管閉鎖にいかなる影響を与えるのか解明する。これまでに、カスパーゼ活性化可視化プローブSCAT3を用いて、細胞死が阻害された胚(細胞死シグナル変異体や薬剤による細胞死阻害条件下)において細胞死、細胞増殖と形態形成とのリアルタイム観察を行い、神経管閉鎖過程に生じる死細胞のふるまいには少なくとも2種類みられること、さらに細胞死シグナル阻害化ではこれらの2種類の死細胞が消失し円滑な胚の形態変化が阻害され神経管閉鎖が遅延することを明らかにした。これらの結果をふまえ、本年度はアポトーシス阻害が細胞レベル・組織レベルの脳の発生発達にどのような影響を与えるのかを解析した。アポトーシスは神経端で多数生じるが、特に前脳前端のanterior neural ridge(ANR)と呼ばれる領域で顕著に認められる。アポトーシス阻害胚では、この領域の運動性が損なわれることが判明した。そこで次に、これらの領域で死ぬ細胞種の同定を試みた。その結果、FGF8を発現した細胞がアポトーシスにより除去されることがわかった。アポトーシス阻害胚では、FGF8産生細胞がANRに蓄積し、その結果FGF8タンパク質が前脳全域へと拡散分布してしまうこと、さらにその結果、前脳領域の細胞分化パターンが異常になることも明らかとなった。この結果は、モルフォゲン産生細胞がアポトーシスにより発生の適切な時期までにを除去されることが、脳の正常な形態形成およびパターニングに必要であることを示している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、頭部神経管閉鎖過程のうち、閉鎖運動過程と組織リモデリング過程でのアポトーシスが、周辺生細胞の振る舞いにどのように影響を与え、それが頭部神経管閉鎖にいかなる影響を与えるのか解明する。これまでに、アポトーシスが正常なタイミングで遂行されることが、閉鎖運動過程においてANRの両端が正常に配置するために必要なことを明らかにしているが、これはアポトーシスが効果を及ぼす形態形成運動を特定したという点で進展と考えられる。さらに、アポトーシスがFGF8発現細胞の除去に効果的に働くということも解明した。これにより、アポトーシスが周辺生細胞に影響を与える一つの様式が明らかにできたといえる。 さらに現在、高解像度ライブイメージング系を構築しており、個々の細胞の動きをトラッキングできる画像データを取得している。これにより、閉鎖運動から組織リモデリング過程における、個々の細胞のアポトーシス、細胞増殖、形態形成の関連を見て行くことが可能となった。実際に、アポトーシス欠損マウスで神経端の融合が一進一退する様子がライブイメージングにより観察されている。これは、アポトーシス阻害により神経管閉鎖運動と拮抗する力が胚に生じることを示唆しており、この点を具体的に検証していくことで、死細胞動態が周辺細胞の振る舞いにいかにして影響を与えるのか解明できると考えられる。 以上の結果から、頭部神経管閉鎖過程のうち、閉鎖運動過程と組織リモデリング過程での死細胞動態の観測とその影響の解析、双方に関わるデータの取得が着実に進行していると結論できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、以上に記した昨年度のデータをふまえ、以下の解析を推進する。(1)頭部神経管閉鎖運動過程でアポトーシスが必要とされる領域の同定:頭部神経管閉鎖過程では、神経板背側屈曲部、神経-表皮境界(神経端)、表皮いずれの領域でも多数のアポトーシスが認められる。アポトーシス阻害により頭部神経管閉鎖速度が低下することをすでに見出しているが、これらの領域のどこのアポトーシスが頭部神経管閉鎖の促進に関与するかは不明である。この点を解明することで、その領域における細胞動態の変化を検討することが可能となる。これまでに部位特異的カスパーゼシグナル阻害マウス(CAG-loxP-stop-p35-Venus; p35は汎カスパーゼ阻害因子)を新規作製しており、アポトーシス阻害時に頭部神経管閉鎖へ影響が出る部位(神経上皮・神経端・表皮)を各組織特異的Creラインと掛け合わせることで同定する。(2)組織リモデリング過程におけるアポトーシスの影響の解明:これまでに、アポトーシス欠損マウスで神経端の融合が一進一退する様子がライブイメージングにより観察されている。この過程を詳細に解析する。具体的には、アポトーシス阻害時に生じる細胞の動きの変化を詳細に記述し、正常時と比較することで、アポトーシス阻害が周辺生細胞動態に与える作用を突き止める。さらに、各種シグナル阻害剤を用いて検証を行い、この過程に関与するシグナル系の同定を試みる。これにより、死細胞が周辺生細胞へ与える物理的作用に加え、化学的作用も解明できると期待される。以上一連の解析により、死細胞動態が神経管閉鎖運動に与える影響とその作用メカニズムを解明する。
|
Research Products
(1 results)