2012 Fiscal Year Annual Research Report
細胞集団制御における隣接細胞間シグナル伝達速度の意義
Publicly Offered Research
Project Area | Cell Community in early mammalian development |
Project/Area Number |
24116705
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
下條 博美 京都大学, ウイルス研究所, 研究員 (40512306)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | シグナル伝達ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
Notchシグナルは細胞間相互作用によって伝達されるシグナル伝達経路であり、細胞の増殖や分化に重要な役割を担う。本研究では遺伝子発現を単一細胞レベルでリアルタイムに可視化することで、隣接細胞間におけるNotchシグナル伝達の動態を追跡し、さらにシグナル伝達速度を改変した場合にどのような影響が及ぼされるのかを明らかにする。これらの解析から細胞間相互作用における「時間」の重要性を明らかにするとともに、隣接細胞間シグナル伝達ダイナミクスの「細胞集団制御」における意義を明らかにすることを目的としている。 まず発生過程のマウス中枢神経系の組織および細胞を用いて、Notchシグナル関連因子の発現ダイナミクスを可視化により調べたところ、NotchリガンドであるDelta-like1(Dll1)の転写活性レベルならびにタンパクレベルで発現振動していることが明らかとなった。Dll1は隣の細胞へとシグナルを送る分子であるため、その発現が振動しているということは隣の細胞へと伝わるNotchシグナルが振動していることを示唆する。つまり隣接細胞間でやりとりされるNotchシグナル伝達は従来考えられてきたものよりもよりダイナミックに双方向性に伝達されていることが考えられる。さらにこの可視化の系を用いて、Dll1を発現する細胞が隣の細胞へと接触した後、隣接細胞でNotchシグナルのエフェクター因子であるHes1の転写が開始するまでの時間を測定することで、隣接細胞間でNotchシグナルが伝わる時間の測定を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までに、以下の項目について検討を行った。 まず発生過程のマウス中枢神経系の組織および細胞を用いて、Notchシグナル関連因子の発現ダイナミクスを可視化により調べた。神経前駆細胞においてはNotchのエフェクター因子であるHes1ならびにNotchリガンドであるDll1の転写活性は振動している。また、マウス未分節中胚葉でそれぞれの因子の発現をリアルタイムイメージングで調べると、どちらの因子もダイナミックに変動していることが明らかになった。さらに隣の細胞へとシグナルを送る膜タンパクであるDll1のタンパクの発現動態を調べるために、Dll1タンパクにルシフェラーゼを融合させたDll1-luciferaseノックインマウスを作製した。このマウスの神経前駆細胞におけるDll1タンパクの発現動態を調べるとDll1タンパクは隣の細胞と位相がずれた形で発現振動していることが分かった。また未分節中胚葉においてはDll1タンパクの発現は隣の細胞と同期してダイナミックに変動していることが明らかとなった。 さらにこのマウスの神経前駆細胞を用いて、隣接細胞間でのシグナル伝達にかかる時間の測定を行った。具体的にはDll1タンパクが発現し隣の細胞に接触した後、隣接細胞でNotchシグナルのエフェクター因子であるHes1の転写活性が開始するまでの時間の測定を行っている。配置する細胞の数や配置パターンを変えたときのシグナル伝達ダイナミクスの変化を測定している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの成果から、隣接細胞間でつたわるNotchシグナルを構成する因子群の発現はダイナミックに変動していることが明らかとなった。とくに隣の細胞へとシグナルを伝達する膜タンパクであるDll1の発現は神経前駆細胞においては転写レベルならびにタンパクレベルで位相がずれた形で発現振動していることが分かった。一方、未分節中胚葉においてはDll1は転写レベルならびにタンパクレベルでダイナミックに変動はしているものの、隣の細胞と同期し位相がずれずに変動していることが明らかとなった。このようにシグナルの伝達ダイナミクスは組織によって大きく異なることが分かった。このような違いがシグナル伝達にかかる時間によってうまれるのではないかと仮定し、シグナル伝達ダイナミクスを改変する試みをはじめている。具体的には隣の細胞へとシグナルを伝達する因子であるDll1の発現ダイナミクスを改変することによって、シグナル伝達ダイナミクスを改変する。Dll1遺伝子配列に含まれる10個のイントロンをなくしたDll1イントロンレスマウスを作製している。イントロンレスDll1タンパクの発現動態を可視化するためにルシフェラーゼをレポーターとして挿入している。このミュータントマウスにおけるDll1タンパクの発現動態や隣接細胞間におけるシグナル伝達ダイナミクスを明らかにする。さらに、異なるシグナル伝達ダイナミクスを示す神経発生過程ならびに体節形成過程を比較することで組織構築におけるシグナル伝達ダイナミクスならびにシグナル伝達にかかる時間の重要性を明らかにする。
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Research Products
(2 results)