2012 Fiscal Year Annual Research Report
マウス前後軸形成過程における細胞動態の制御機構
Publicly Offered Research
Project Area | Cell Community in early mammalian development |
Project/Area Number |
24116713
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Research Institution | Research Institute, Osaka Medical Center for Maternal and Child Health |
Principal Investigator |
松尾 勲 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), その他部局等, 研究員 (10264285)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 哺乳動物初期胚 / 前後軸 / Wntシグナル / ライブイメージング / FGFシグナル / 遠位臓側内胚葉 / ヘパラン硫酸鎖 / 細胞運命決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、哺乳動物初期胚における細胞動態制御モデル系として、マウス前後軸形成機構に注目し以下3点の知見を得た。1)マウス着床直後の近遠(前後)軸極性化過程において、蛍光タンパク質をレポーターとして持つトランスジェニックマウスラインやROSA遺伝子座にストップコドンとloxP で挟まれたβ-gal遺伝子を持つインディケーターマウス等を用いて遠位臓側内胚葉の細胞動態を解析した。更に、着床直後胚を培養可能な至適条件下で、細胞挙動を経時的ライブで観察した。その結果、遠位臓側内胚葉細胞挙動に影響を与える細胞外基質因子を特定することに成功した。2)マウス原条形成運動において、拡散性成長因子が、ヘパラン硫酸鎖を介してどのように細胞動態を制御しているか解析を進めた。ヘパラン硫酸鎖欠損胚では、中胚葉細胞の前方への移動が正常に進行しないことを明らかにしている。そこで、上皮間葉転換のマーカーであるE-cadherinの発現を解析したところ、上皮間葉転換(中胚葉形成)後も発現し続けて低下しないことが分かった。更に、野生型胚では、FGFシグナルの下流活性化マーカーであるリン酸化ERKの発現が移動中の中胚葉細胞で認められるが、ヘパラン硫酸鎖欠損胚ではその活性が失われていた。3)現在までに、マウス頭部の表皮と神経の外胚葉細胞の運命がWntシグナルで制御されることを見いだしているが、本年度は、Wntシグナルの下流標的として、未分化外胚葉から神経外胚葉と表皮外胚葉細胞への運命決定に働く転写因子Grhl群を同定した。具体的には、野生型胚とWntシグナル活性を変動させた胚においてその発現がWnt活性と呼応して変化すること、更に、得られた転写因子のcDNAを過剰発現させたトランスジェニックマウスやノックアウトマウスでは、表皮と神経上皮細胞間の運命決定が変化することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3点の課題に関する実験計画を遂行したが全課題とも年度当初に計画した内容について回答を与えることができた。 1)現在までマウス着床直後胚における前後軸形成時に、なぜ遠位に特定の臓側内胚葉細胞群が出現するのか、どのような細胞動態が関与しているか明らかにされていなかった。今回、着床直後胚の培養系とイメージング観察システムを確立することで、新規な細胞挙動とその制御に関わる細胞外基質因子を発見することができた。 2)ヘパラン硫酸欠損胚において中胚葉移動に異常を起こす原因や関与するシグナル経路など不明であった。今回、FGFシグナル経路の標的分子の活性化状態を単一細胞レベルで解析することが技術的に可能となったことによって、FGFシグナルが活性化されない結果、E-cadherinの発現が長期間維持され続けることが、中胚葉移動異常の一因であることを示すことできた。 3)現在まで哺乳動物胚においては、表皮と神経上皮間の細胞運命がどのような分子経路で制御されているのかはっきりとは示されてこなかった。今回、カノニカルWntシグナルが表皮化のマスター遺伝子と考えられているGrhl転写因子を介して表皮化に働くこと、更にはカノニカルWntシグナルが哺乳動物の神経管閉鎖過程にGrhl因子を介して直接関わることを分子的実体として示すことができた。更に、ヒト神経管閉鎖不全症候群は最も発症頻度の高い先天異常の一つであり、Wnt経路に関わる分子が、ヒトにおける疾患原因となっている可能性や新規な治療法開発に繋がる可能性が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1)マウス着床直後の近遠(前後)軸極性化過程において、Cer1陽性の遠位臓側内胚葉細胞の動態に注目して解析を行ってきた。そこで今後は、細胞挙動制御に働く細胞外基質因子をライブでイメージングできる蛍光試薬を用いてその発現分布を解析する。また、着床直後胚をin vitro培養条件下、各種分泌性シグナル経路の阻害剤を添加させた場合、Cer1陽性細胞挙動がどのような影響をうけるかについても検討する。更に、より詳細にCer1陽性細胞の形態や挙動を解析するため透過型電子顕微鏡解析も進める予定である。 2)マウス原条形成運動において、拡散性シグナル因子が、ヘパラン硫酸鎖を介してどのように細胞動態を制御しているか調べるため、ヘパラン硫酸鎖、ヘパラン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、FGFリガンドとFGF受容体の発現を免疫染色法などによって単一細胞レベルで解析する。特に、ヘパラン硫酸鎖欠損胚と野生型胚との間での発現局在の差異について比較する。また、in vitroで中胚葉細胞の挙動を観察できる培養システムを検討・確立し、野生型とヘパラン硫酸鎖欠損胚における細胞移動にどのような違いが見られるか解析する。 3)現在までに、カノニカルWntシグナルが表皮化のマスター遺伝子と考えられているGrhl転写因子を介して表皮化に働くことを明らかにしている。そこで、前脳レベルにおける表皮と神経の細胞運命決定に対して、Wnt経路分子とGrhl因子とが遺伝学的に相互作用しているか調べるため、Dkk1変異マウスやb-catenin変異マウスとGrhl変異マウスを交配し、二重変異体を作成し表現型を解析する。更に、前脳領域の神経管閉鎖中の表皮と神経細胞の運命決定時期において、Dkk1やGrhlタンパク質発現局在がどのように変化しているか解析する予定である。 研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での問題点はない。
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