2012 Fiscal Year Annual Research Report
アフリカツメガエルの器官再生に阻害的に働く自然炎症の分子機構の解析
Publicly Offered Research
Project Area | Homeostatic inflammation: Molecular basis and dysregulation |
Project/Area Number |
24117705
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保 健雄 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10201469)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | アフリカツメガエル / オタマジャクシ / 再生 / 免疫応答 / 自己反応性 / FK506 / 非自己 / phytanoyl-CoA |
Outline of Annual Research Achievements |
アフリカツメガエル幼生は「不応期」に尾の再生能を一過的に失う。私たちはこれまで不応期個体を免疫抑制剤(FK506)で処理すると再生能が回復することを見いだし、不応期には獲得免疫系が分化し始めるが、未熟な免疫細胞が再生芽を「非自己」と攻撃するため再生能が阻害される。一方、可能期には制御性T細胞がこれらの免疫細胞の働きを抑制するため再生能が回復することを提唱した。本年度は再生芽を攻撃する免疫細胞の実体解明を目指した。 再生能を規定する免疫応答に関わる遺伝子を同定するため、ディファレンシャル・ディスプレイ法でFK506処理群(再生能あり)と無処理群(なし)の尾で発現が異なる遺伝子を検索し、新規遺伝子phytanoyl-CoA dioxygenase (XPhyH)-likeを得た。。 XPhyH-likeは不応期無処理群の尾の切断後に一過的に誘導され、その誘導はFK506処理で抑えられた。また、この誘導は可能期より不応期で高く、体の組織の中では血球分画で強く発現した。このことは、XPhyH-likeが不応期尾切断端に一過的に浸潤し、再生を阻害する免疫細胞に発現することを示唆する。XPhyH-likeは発育過程では不応期選択的に発現し、不応期にはXPhyH-likeを発現する自己反応性の免疫細胞が全身に漏出している可能性が考えられた。モルフォリノアンチセンスオリゴを用いた遺伝子ノックダウンを行うと、発生過程でほとんどの個体が死亡した。このことはXPhyH-likeが発生過程で重要な働きをもつことを示している。 本研究では、再生芽細胞を攻撃する自己反応性免疫細胞のマーカー候補としてXPhyH-likeを初めて同定した。今後、再生能を失ったカエル成体や再生能をもたない哺乳類で自己反応性の免疫細胞の動態解析のために利用可能と思われ、再生生物学の発展に大きく寄与すると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の通り、私たちは不応期のアフリカツメガエル幼生を免疫抑制剤(FK506)で処理することで再生能が回復することを見いだし、免疫応答が再生能を規定する一因であることを示した(Fukazawa et al., Development 2009)。つまり、不応期には再生芽細胞は未熟な免疫系により「非自己」として攻撃されるため再生能が阻害される。この知見は「脊椎動物の系統進化に連れて免疫系は発達するが、再生能は失われる」という逆相関を巧く説明する。しかし、この仮説にはまだ未解明な謎が主に2つあった。1つは不応期に再生芽を攻撃する免疫細胞の実体であり、もう1つは、免疫系が標的として攻撃する再生芽が発現する非自己マーカーの実体である。 本研究では、再生芽細胞を攻撃する自己反応性免疫細胞のマーカー候補としてXPhyH-likeを同定した。XPhyH-likeの尾切断後の誘導やFK506処理への応答、血球分画での発現についての知見は、XPhyH-likeが不応期の尾切断端に一過的に浸潤し、再生を阻害する免疫細胞のマーカー遺伝子と考えると巧く説明がつく。不応期は、この自己反応性免疫細胞が体内を巡っている自己免疫疾患の状態とも言える。(Naora et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 2013)。これは所期の目的に合致するのみならず、世界的にも独創的で学術的価値の高い研究成果であると判断している。 しかしながら、恐らくはXPhyH-likeの発現量、あるいは発現細胞の数が少ないために、XPhyH-like発現細胞をin situ hybridization法で同定するには至っていない。また、もう1つの残された謎である、免疫系が標的として攻撃する再生芽が発現する非自己マーカーの実体も解明には至っておらず、平成25年度の課題として残されている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は引き続き、所期の目的である、「再生芽細胞は未熟な免疫系にとって非自己である」との仮説に残る2つの未解明な問題の解決を目指す。 1つ目の不応期に再生芽を攻撃する自己反応性免疫細胞の実体については、カエル成体の血球分画を用いて、XPhyH-like発現細胞を検出する。既知の免疫細胞のマーカー遺伝子との二重染色などにより、XPhyH-like発現細胞を同定する予定である。 2つ目の免疫系が標的として攻撃する再生芽が発現する非自己マーカーの実体の同定については、先ず再生芽の増殖細胞の遺伝子発現プロフィルを知り、その中から候補となる標的遺伝子を検索することを考えている。このため再生芽から、増殖細胞をフローサイトメトリーを用いて単離し、RNA-seqにより遺伝子発現プロファイルを得る。得られた遺伝子リストから、正常な尾の発生過程では発現しない遺伝子を差し引くことにより、標的分子の候補を得る。候補遺伝子が実際に、不応期再生芽の増殖細胞に発現するか検討する。
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Research Products
(5 results)