2012 Fiscal Year Annual Research Report
思春期の性成熟が自己制御能力低下に及ぼす影響およびその遺伝・環境リスク要因の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Adolescent mind and self-regulation |
Project/Area Number |
24118505
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
西谷 正太 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (50448495)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 思春期 / 自己制御能力 / ホルモン / 社会性 / 遺伝子 / 環境 / 発達 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、小学生~若年成人を対象に、社会性・自己制御能力計測、内分泌機能計測、遺伝子多型計測、環境因子計測を実施し、これらを基に、社会性・自己制御能力の問題をもたらす思春期特有のリスク要因を解明することを目的とし、以下の研究を行った。タナーの発達段階のⅠ度、Ⅱ度に相当する年齢の小学生70名、Ⅲ度に相当する年齢の中学生27名、Ⅴ度に相当する年齢の高校生79名を対象に、頬粘膜及び唾液試料の採取、3種類の行動課題による社会性・自己制御能力の測定を行い、その発達的変化を調べた。①Gaze Direction Detection Task:[発達群]と[視線の逸れ方]に、有意な交互作用が見られ、小学生は、中学生・高校生に比べ、微妙な視線方向の弁別能力が低いことがわかった。②Chimeric Face Task:[発達群]と[情動]に、有意な交互作用が見られ、中学生・高校生の快情動処理は左半球優位だった一方、小学生では快表情・不快表情処理のいずれにも有意な半球優位性は見出されなかった。③Farming on Mars Task:[発達群]と[トライアル数]の交互作用に有意傾向が見られ、自己制御能力課題における学習曲線の群間比較では、中学生において、長期的に得な意思決定の学習が、他の2群に比べ遅れる傾向にあることがわかった。以上①~③の行動課題成績の暫定的分析の結果、思春期前期~中期を境に、重要な社会的刺激である表情・視線の処理様式に変化が起こる可能性が見出された。また、思春期中期には、目先の報酬につられて長期的に損な意思決定を行う傾向が、他の年齢群よりも強い傾向にある可能性が示唆された。次年度の計画として、今後、遺伝子多型・内分泌機能とこれら行動傾向との関連性を分析し、行動傾向の発達過程に脆弱性をもたらす因子の探索を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、思春期を挟み、その前後の幅広い年代に適応可能な社会性・自己制御能力計測のための行動課題を確立させ、これを用いて、迅速にデータ収集を行った。その結果、タナーの発達段階のⅠ度、Ⅱ度に相当する年齢の小学生70名、Ⅲ度に相当する年齢の中学生27名、Ⅴ度に相当する年齢の高校生79名を対象に、実験を遂行することができた。また、現在、さらに成人群として、大学生およそ90名の実施も終えている。したがって、中学生を除き、2年間の当初計画で実施する予定の対象者数の大部分を実施し終えている。特に、本領域が主眼とする思春期の最中にある対象者から、実際に多くのデータを取得できた点は、次年度や全体計画の遂行が確実に行われることを裏付けるものであり、評価できるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、各年代のデータ取得を継続して行う。特に、中学生に関しては、これまでに実施した数が少なかったため、当初計画にある目標設定数(各年代100名)になるよう優先的に行う。具体的には、ひらめきときめきサイエンス、サイエンス・パートナーシップ・プログラム等の科学技術啓発活動に参加した生徒等を対象に、本来の教育的な活動に加え、本研究への参加を推進する。現実的には研究対象にし難い年代のため、こうした教育的視点を加えつつ、研究への協力も得られるよう多方面に参加を呼びかける計画である。一方、これまで実施した対象者から得た生体試料から、遺伝子多型・内分泌機能の解析を行い、行動傾向との関連性を分析し、行動傾向の発達過程に脆弱性をもたらす因子の探索を進める。遺伝子多型・内分泌機能については、既に確立しているため、収集済みの検体から、随時解析を進める。
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