2012 Fiscal Year Annual Research Report
中脳神経回路ダイナミクスによる行動予測形成機構
Publicly Offered Research
Project Area | Elucidation of neural computation for prediction and decision making: toward better human understanding and applications |
Project/Area Number |
24120511
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小林 康 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (60311198)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 強化学習 / サッケード / 報酬予測 / 行動予測 / 固視微動 |
Outline of Annual Research Achievements |
中脳アセチルコリンシステムが報酬に基づく強化学習に対する役割を明らかにするモデルを提唱しようとしている。強化学習や学習に必要な誤差信号の脳内計算過程において様々な信号の時間微分、積分が必要となるが、情報の受け手、送り手のニューロンの物理的な過渡特性を利用したニューロン上の情報集約過程での微分積分が起きているのか、異なる信号の線形加算による微分積分が起きているのかよくわかっていない。手がかり刺激によってジュース報酬を予期させる眼球運動課題をサルに行わせ、ドーパミン細胞に投射するアセチルコリン作動性のニューロン核脚橋被蓋核でニューロン活動を記録すると正負両方の符号で持続的(ゆっくりとした時間変化で)に、課題による予測報酬量を符号化するニューロン群がみつかった。このニューロン活動は外的刺激による報酬期待のみならず、課題開始に関わる内的動機付けの情報も符号化することがわかった(論文投稿中)。 最近、応用展開として眼球運動計測に基づく報酬予測、行動予測研究を、ヒトを被験者にしてさらに進めている(阪大病院との共同研究)。さまざまな神経疾患によって生じるヒトの「こころの戸惑い、震え」を眼球運動から読み解こうとしている。具体的にはサッケードの反応時間(標的が呈示されてから眼球が動き始めるまでの時間)を行動遂行の指標にし、運動を準備している注視中の固視微動から、適切な運動制御に必要な運動準備状態を読み取ることを試みている。健常被験者にアンチサッケードと通常のサッケード(プロサッケード課題)課題を行わせ、サッケード、あるいは注視中の固視微動を記録し、サッケードの反応時間、課題の成功失敗、固視微動の頻度、大きさ、瞬きの頻度、瞳孔径などを運動準備の度合い、衝動性の指標として定量解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
手がかり刺激によってジュース報酬を予期させる眼球運動課題をサルに行わせ、ドーパミン細胞に強力な興奮性入力を送る脚橋被蓋核のニューロン活動を記録すると、正負両方の符号で持続的に、課題による予測報酬量を符号化するニューロン群がみつかった。この結果は、強化学習におけるドーパミン細胞での報酬予測誤差の計算過程において、正負両方向の外的内的な報酬予測情報の関与を示唆し、さらに報酬予測信号の微分が異なる信号間の微分で起きていることを示唆する(論文投稿中)。これで、脚橋被蓋核の機能がはっきりしてきたのでいよいよ、薬物の微量注入で可逆的に脚橋被蓋核, ドーパミン細胞の活動をブロックした時のドーパミン細胞, 脚橋被蓋核の活動変化(脚橋被蓋核-ドーパミン細胞神経回路に対するニューロン活動停止によるそれぞれのfeedforward/feedbackの効果の検討)の実験を行う準備が整った。得られた生理実験結果を動的神経回路モデルレベルに落とし込んで強化学習を理解していきたい。 ヒト心理物理実験においては、あらかじめ反射抑制の運動準備が必要なアンチサッケード課題では、サッケードの反応時間が遅くなることが確認され、さらにアンチサッケードの準備状態の注視中は、プロサッケードの時と比べて固視微動が減少していることがわかった。また、被験者がアンチサッケードを失敗するときには、準備中の固視微動が異常に増加していることがわかった。固視微動を随意的に押さることが、アンチサッケードなどの反射抑制を適切に行うときに必要なことがわかった(論文投稿中)。
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Strategy for Future Research Activity |
脚橋被蓋核の機能がはっきりしてきたのでいよいよ、薬物の微量注入で可逆的に脚橋被蓋核, ドーパミン細胞の活動をブロックした時のドーパミン細胞, 脚橋被蓋核の活動変化(脚橋被蓋核-ドーパミン細胞神経回路に対するニューロン活動停止によるそれぞれのfeedforward/feedbackの効果の検討)の実験を行う準備が整った。得られた生理実験結果を動的神経回路モデルレベルに落とし込んで強化学習を理解していきたい。 ひと心理実験は興味深い結果が得られてきたので、なるべく早い段階で患者さんの眼球運動記録を目指したい。
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