2012 Fiscal Year Annual Research Report
実環境におけるリスクと情報探索の神経機構
Publicly Offered Research
Project Area | The study on the neural dynamics for understanding communication in terms of complex hetero systems |
Project/Area Number |
24120716
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Research Institution | Tamagawa University |
Principal Investigator |
鮫島 和行 玉川大学, 脳科学研究所, 准教授 (30395131)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 意思決定 / 報酬 / 強化学習 / 選考判断 / リスク回避 / 情報探索 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、意思決定時における探索行動、およびその時の神経活動を解析することによって、情報探索と利用の神経機構を明らかにする事を目的とする。 第1に、行った行動選択とその結果得られる報酬との関係を学習する課題を2頭の動物に訓練させ、動物の学習戦略行動および大脳基底核線条体の神経活動の局在について解析を行った。これまでの研究において、大脳基底核が運動の選択ばかりではなく認知的に対象を選択する際にも重要な役割を担う事を示して来た。今回は、運動と対象、それぞれの選択に関わる神経細胞の線条体内における局在を明らかにした。報酬量を比較し腕運動を選択する事に関わる神経細胞と、対象画像を選択することに関わる神経細胞はともに前方内側の投射細胞に多く存在することを明らかにした。このことは、運動の選択や記憶対象の選択などの異なる対象の選択であっても、大脳皮質-大脳基底核並列回路における同一の回路が関わる可能性を示唆している。 第2に、ヒトが複数の商品から1つの商品を選択する嗜好に関する行動実験と脳活動計測を行った。4つ提示される商品画像からつの商品を選択させる課題の前に、事前アンケートによる商品の事前知識と、ギャンブル課題によるリスク指向性および強化学習課題における探索パラメータとの関係をあらかじめ測定した。その結果、得られる報酬(金銭)と確率との関係で示唆されるリスク指向性よりも学習課題における探索性の強さが、商品選択による「新しもの好き」をよく説明すること、さらに強化学習課題において学習された最大価値を示す対象をあえて選ばず探索的な行動を行う際に活性化する前頭極が、新商品を選択する際にも活動する事を見いだした。このことは、新商品を選択する行動は、単なる衝動性やリスクを好む行動ではなく、より新しい情報を得るための行動と一致する可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1に、これまでに、行った行動選択とその結果得られる報酬との関係を学習する課題を2頭の動物に訓練させ、動物の学習戦略行動および大脳基底核線条体の神経活動の局在について解析を行ってきた。これまでの研究において、大脳基底核が運動の選択ばかりではなく認知的に対象を選択する際にも重要な役割を担う事を示して来た。今回は、運動と対象、それぞれの選択に関わる神経細胞の線条体内における局在を明らかにした。運動との関係をあきらかにするために、本年度は特に前方だけでなく後方の線条体からも神経活動記録を進め、前後方向の神経活動の違いについて実験的に明らかにできた。このことによって、運動の選択や記憶対象の選択などの異なる対象の選択であっても、大脳皮質-大脳基底核並列回路における同一の回路が関わる可能性を示唆することができた。しかし、学習モデルを計算論的に明らかにする段階までは達成することができなかった。特に、行動を説明する強化学習モデルは構築することはできたがモデルが予測する線条体の神経活動との対応関係を明らかにする必要が生じた。 第2に、ヒトを対象とした商品選択課題の脳活動計測実験を順調に実施し、強化学習で求められる探索時の脳活動と、商品選択時における個人にとって未知の新しい商品を選択する際の脳活動の相同性について検討することができた。その結果、得られる報酬(金銭)と確率との関係で示唆されるリスク指向性よりも学習課題における探索性の強さが、商品選択による「新しもの好き」をよく説明すること、さらに強化学習課題において学習された最大価値を示す対象をあえて選ばず探索的な行動を行う際に活性化する前頭極が、新商品を選択する際にも活動する事を見いだした。このことは、新商品を選択する行動は、単なる衝動性やリスクを好む行動ではなく、より新しい情報を得るための行動と一致する可能性を示唆することができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
動物を用いた実験、ヒトの行動と脳活動の実験は一通りの結果を得たため、平成25年度は論文としての発表を行うとともに、得られたデータの解析および因果をあきらかにするための追加実験を検討する。 第1に、線条体の神経活動と、計算論的なモデルから予測される学習パラメータとの関係を明らかにするために、複数の計算論的モデルのモデル間の比較と選択を行う必要がある。また、神経活動が学習に伴ってどのように変化するのかを解析する予定である。また、同一課題において3頭目の訓練を行い、大脳基底核ばかりでなく、大脳皮質からの神経活動記録や、LFPの同時記録なども視野にいれ、大脳基底核-大脳皮質ループのどの領域が関わるのかについてより詳細な検討をおこなう予定である。また、明らかになった局在領域の薬理的な不活性化を行うことによって、相関ばかりではなくこの領域が因果的に報酬の比較と選択に関わるのかどうかについて検討を行う。 第2に、ヒトを対象として脳活動計測実験は、強化学習と商品購買行動という一見異なる状況においての脳活動を比較・検討しその相同性を明らかにしてきた。個人差または個人内の脳領域の相関によって、探索や商品選択における前頭極の重要性を明らかにしてきた。しかし、あくまでも相関を見ているにすぎない。この実験であきらかになった前頭極領域をTDCS やTMSなどによって操作する実験を計画し、相関ばかりでなく因果的に前頭極と情報探索の神経機構を明らかにする必要がある。また課題中の局所的な脳血流ばかりではなく、安静時の多くの領域における活動のネットワーク解析や灰白質の体積など探索の個人差を説明する脳構造・脳活動の他のパラメータとの相関などを検討する。
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