2013 Fiscal Year Annual Research Report
ネアンデルタールとサピエンスの骨格の形態差から探る飛び道具使用行動の差異
Publicly Offered Research
Project Area | Replacement of Neanderthals by Homo sapiens: testing evolutionary models of learning |
Project/Area Number |
25101706
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
日暮 泰男 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (90580283)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 交替劇 / 投擲 / 投槍器 / 実験考古学 / 運動学 |
Research Abstract |
約5万年前にサピエンスがアフリカからユーラシアに拡散すると、それ以前からヨーロッパを中心に生息していたネアンデルタールは地球上から姿を消した。本研究の目的はネアンデルタールとサピエンスの交替劇に彼らが使用した飛び道具や彼らの投擲能力の差異がどのように関与したのかを議論することである。平成25年度は、以下の研究を進めた。 (1)投槍器の仕組みと長所についての理解を深めるために、投槍器の有無による槍の初速度と身体から槍への運動エネルギーの伝達効率の変化を調べた。投槍器を使用するほうが、手で槍を直接投げるよりも、槍の初速度と運動エネルギーの伝達効率が高かった。この結果から、投槍器を使用すると槍の効果的な投擲が可能になることが実証され、さらに、身体から槍への運動エネルギーの伝達効率の向上がその一因となっていることが示唆された。 (2)投槍器の使用による槍の初速度と運動エネルギーの伝達効率の向上は槍を水平方向に投擲する場合と45度上方に投擲する場合の両方において見られた。この結果から、投槍器は地上性動物の狩猟だけでなく樹上性動物や飛翔動物の狩猟にも利用可能な汎用性の高い飛び道具だったという新しい仮説が導かれた。 (3)投槍器は汎用性の高い飛び道具だったという仮説を検証するために、アレウトとイヌイットにおける投槍器の使用法についての文献研究をおこなった。次の記載を見つけた。投槍器を使用するのはおもにカヤックによる海上狩猟の場面である。飛翔中の鳥類の狩猟には別の狩猟具を用いる。したがって、仮説は支持されなかったが、民族資料をさらに集めて、今後も検証していきたい。 (4)ネアンデルタールと初期サピエンスの投擲能力推定の基礎データとするために、槍の初速度と実験対象者の形態的特徴との相関関係を調べた。また、ネアンデルタールと初期サピエンスの化石四肢骨の寸法にかんする記載のある文献を集めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究は順調に進行し、当初計画どおりに遂行できた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は考古資料における飛び道具の種類の同定と関連した研究に力を入れる。当初計画にはふくまれない内容であるが、これまでに研究を進めていく中でネアンデルタールとサピエンスの交替劇について考察するためのより有意義な研究を計画するにいたった。先史時代の飛び道具には手投げの槍、投槍器、弓矢などいくつかの種類がある。飛び道具の種類におうじて、槍の推進効率、殺傷力、石材の節約などの観点で機能的に最適な石器のサイズが存在すると一般的に考えられており、これをもとに考古資料における狩猟法が論じられてきた。平成26年度の研究では、考古資料における狩猟法の同定について新しい視点をもたらしたい。
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