2013 Fiscal Year Annual Research Report
頭蓋と脳形態の相関に関する研究:化石人類の脳区分推定に向けて
Publicly Offered Research
Project Area | Replacement of Neanderthals by Homo sapiens: testing evolutionary models of learning |
Project/Area Number |
25101711
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | National Defense Medical College |
Principal Investigator |
小林 靖 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 医学教育部医学科専門課程, 教授 (00195819)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 人類学 / 解剖学 / 霊長類 / 頭蓋 / 脳・神経 / エンドキャスト |
Research Abstract |
本研究は,ネアンデルタールと現生人類の脳機能差の解明を目標に,脳の各部分の大きさと割合の差を明らかにするため,頭蓋の形態から脳の区分の境界を知るための指標を開発しようとするものである.平成23年度以来,材料としては現生霊長類と現生人類の固定標本と乾燥頭蓋標本ならびにそれらのCTデータ,臨床画像を利用し,下記の2つの項目に取り組んできた. A. 頭蓋内面の圧痕に基づく脳溝・脳回の同定 まずカニクイザル頭部の固定標本を用いて,CTデータによって仮想的エンドキャストを作成し,脳表面の形態と比較した.中心溝,主溝,弓状溝をはじめ,頭蓋に面する主要な脳溝がエンドキャスト上でも観察された.そこで霊長類10種16例の乾燥頭蓋標本で同様にエンドキャストを作成して,既存の資料に記載されている脳溝が確認できるか解析した.最も頭蓋の大きいチンパンジーでは脳溝との対応が確認できないが,その他の例ではカニクイザルと同様であった. 次にチューリヒ大学のZollikofer教授らと共同で,チンパンジー,ボノボ,ゴリラなど類人猿とヒトのCTデータを検討し,幼若個体においてエンドキャスト上の圧痕と脳溝との関係が比較的明瞭な時期があることを見出した.その経時変化について現在解析を進めている. B. 冠状縫合の位置に基づく中心前溝の位置の推定 カニクイザル頭部固定標本で弓状溝下脚が冠状縫合の下部ときわめて近い位置にあることを見出し,霊長類乾燥頭蓋標本でこの関係を検証した.個体差ならびに種差が存在するものの,弓状溝下脚ないし中心前溝下部は概ね冠状縫合の近くに位置していることが明らかになった.ヒトのとくに成体では頭蓋内面の圧痕が前頭骨眼窩板や側頭骨の一部を除いて観察しにくいので,冠状縫合との位置関係の解析が重要である.固定標本(解剖実習用献体)でのデータ収集はほぼ完了し,今年度の解析の準備ができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この新学術領域研究に招待研究者として参加して以来,前述のAとBの2項目を進めてきた.Aの「頭蓋内面の圧痕に基づく脳溝・脳回の同定」に関しては,カニクイザル頭部固定標本での所見をDynamics of Learning in Neanderthals and Modern Humans 2: p.131-137, 2014に発表した.当初カニクイザルの頭部固定標本の例数を増やす予定だったが,最終的な研究目標がネアンデルタールと現生人類であるため,より広い範囲の種,とくに類人猿のデータを解析することが重要だと考え,霊長類乾燥頭蓋標本の解析とZollikofer教授との共同研究を計画した.とくに後者は類人猿とヒトの幼若個体について多くの例を解析することができた(幼若個体の解析でヒト42例,チンパンジー41例,ボノボ38例など).これは当初の予定をはるかに上回り,研究が予想以上に進展した. Bの「冠状縫合の位置に基づく中心前溝の位置の推定」については,カニクイザル頭部固定標本での所見をDynamics of Learning in Neanderthals and Modern Humans 2: p.139-143, 2014に発表した.Aと同様に霊長類乾燥頭蓋標本の解析を進めた.そこでカニクイザルと概ね同様の結果を得たが,種差や個体差をどのように取り扱うかが課題となった.ヒトでの解析に関して,頭部固定標本でのデータ収集は順調に進んだが,解析は予定より遅れている.医療画像は解像度の高いデータの入手が予想よりも難しく,とくに小児は困難であることが明らかになった. 以上,項目AとBの進捗状況を総合すると一部遅れがあるものの,予定を上回って進展した部分もあるので,概ね順調に進行していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画は最終年度となった.前述のように項目Aは予想以上に進展したので,これを維持していきたい.今年度は遅れの見られるBについて,ヒトの冠状縫合と脳溝との位置関係について重点的に推進する予定である.医療画像の例数が制限される反面,固定標本でのデータは50例以上集まっており,冠状縫合の位置が明確に特定できる例のみ抽出しても,統計的に問題の無い解析ができると考えている. さらに,C01班で化石頭蓋の復元が進んでいるので,これにわれわれの所見を当てはめてネアンデルタールと現生人類の脳区分を明らかにすべく,共同作業を進める予定である.
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