2013 Fiscal Year Annual Research Report
空間反転対称性の破れを人工的に制御した重い電子系超伝導体の物性研究
Publicly Offered Research
Project Area | Topological Quantum Phenomena in Condensed Matter with Broken Symmetries |
Project/Area Number |
25103713
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
芝内 孝禎 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00251356)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 空間反転対称性 / エピタキシャル成長 / 重い電子系 / 非従来型超伝導 / パウリ効果 / スピン軌道相互作用 / ラッシュバ分裂 / 分子線エピタキシー |
Research Abstract |
本研究の目的は、重い電子系の薄膜作製技術を用いて、前例のない手法により人工的に重い電子超伝導体の空間反転対称性を制御し、反転対称性の破れに伴い発現することが期待される新奇超伝導状態を詳細に調べ、強相関超伝導の理解を格段に進歩させることである。具体的には、申請者らが最近世界で初めて成功したCe系重い電子系超伝導体の超格子エピタキシャル化技術をさらに発展させて超伝導層や非超伝導層の厚みに変調を加えたまったく新しい変調型超格子構造を作製する。その超伝導特性を評価することにより、通常超格子においても期待される層界面における局所的な空間反転対称性の破れの効果と、変調超格子で導入可能なグローバルな空間反転対称性の破れの効果をそれぞれ調べる。 今年度においては、Ce系重い電子系超伝導体CeCoIn5と、同型の結晶構造を持つ通常金属YbCoIn5の超格子構造に厚み変調を加えた(m:n:m:n')型構造について研究を行った。超伝導層の層数mを5単位胞に固定し、通常金属層の層数nおよびn'を変化させた超格子構造について、エピタキシャル成長に成功した。ここでn+n'を10層に固定し、n=7,n'=3およびn=8,n'=2の超格子について、通常の超格子n=n'=5との比較を行うことにより、層数変調による空間反転対称性の破れの効果について調べた。その結果、超伝導転移温度はほとんど変化がないのに対し、上部臨界磁場の温度依存性および磁場角度依存性に明確かつ系統的な変化を観測した。 この結果は層数変調により空間反転対称性の度合いを変化させることにより、電子構造におけるラッシュバ型のスピン軌道相互作用と超伝導特性におけるパウリ効果を人工的に制御できることを世界ではじめて示したものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では超高真空分子線エピタキシー(MBE)法を用いて、重い電子系超伝導体CeCoIn5と通常金属YbCoIn5を原子層レベルで積層したエピタキシャル超格子構造に着目し、その層数に変調をかけることによる効果を調べることを当初の目的とした。本年度においては、既にこの当初計画していた構造のエピタキシャル成長に成功した。目的の構造が得られたことは、X線回折測定により、変調構造から期待されるサテライトピーク構造を観測したこと、さらに、高分解能透過型電子線顕微鏡測定により、実際の層数変調が確認できたことにより、実験的に確立したと考えられる。 得られた超格子の低温磁場中電気抵抗率測定により、上部臨界磁場の温度依存性および磁場角度依存性測定を行い、温度依存性では、層数変調を導入することに伴い、パウリ効果が抑制されることを示す規格化臨界磁場の低温部分における上昇が観測された。また磁場角度依存性においては平行磁場付近において、層数変調導入に伴いカスプ状の以上が出現することを明らかにし、角度依存性の定量解析から、パウリ効果の抑制が変調の度合いとともに増大することを見出した。 このような結果は、当初目的としていた層数変調による空間反転対称性の度合いの制御が実際に可能であることを示しており、計画をほぼ達成したと考えることができる。本成果は、論文としてまとめ、Physical Review Letters誌に出版予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画はほぼ達成できたので、今年度については本研究領域「対称性の破れた凝縮系におけるトポロジカル量子現象」の研究目的に合致した以下の研究を展開する予定である。 (1)今年度扱った重い電子系超伝導体CeCoIn5、通常金属YbCoIn5に加え、新たに重い電子系反強磁性体CeRhIn5のエピタキシャル成長条件を最適化し、この3種類の物質を用いた超格子構造作製に向けた基盤技術の開発を行う。3種類の化合物の任意の積層構造が可能となれば、今までに成功したABAB型、ABAB'型に加え、新しいタイプのABC型の超格子構造が可能となり、完全にグローバルな空間反転対称性を破った系の作製が可能となる。 (2)バルクの結晶構造として空間反転対称性を持たない超伝導体がいくつか知られており、その中で時間反転対称性が破れた超伝導状態がμSR測定から示唆されている物質について、超伝導ギャップ構造を調べることにより超伝導対称性を決定し、空間反転対称性の破れにより新しい超伝導状態が実現しているかどうかの検証を行う。 (3)時間反転対称性が破れている可能性が指摘されている重い電子系超伝導体URu2Si2の超伝導ゆらぎをネルンスト効果の測定から評価し、最近当該研究領域の理論的研究により示唆された時間反転対称性の破れた超伝導に伴う新しいタイプのベリー位相ゆらぎが観測できるかどうかの検証を行う。これにより、非従来型超伝導の新展開が期待される。
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[Journal Article] Controllable Rashba Spin-Orbit Interaction in Artificially Engineered Superlattices Involving the Heavy-Fermion Superconductor CeCoIn52014
Author(s)
M. Shimozawa, S. K. Goh, R. Endo, R. Kobayashi, T. Watashige, Y. Mizukami, H. Ikeda, H. Shishido, Y. Yanase, T. Terashima, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
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Journal Title
Phys. Rev. Lett.
Volume: 112
Pages: 印刷中
Peer Reviewed
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[Journal Article] Doping Evolution of the Quasiparticle Excitations in Heavily Hole-Doped Ba1-xKxFe2As2: A Possible Superconducting Gap with Sign-Reversal between Hole Pockets2014
Author(s)
D. Watanabe, T. Yamashita, Y. Kawamoto, S. Kurata, Y. Mizukami, T. Ohta, S. Kasahara, M. Yamashita, T. Saito, H. Fukazawa, Y. Kohori, S. Ishida, K. Kihou, C. H. Lee, A. Iyo, H. Eisaki, A. B. Vorontsov, T. Shibauchi, and Y. Matsuda,
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Journal Title
Phys. Rev. B
Volume: 89
Pages: 115112
DOI
Peer Reviewed
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