2013 Fiscal Year Annual Research Report
磁性金属におけるハイブリッド密度汎関数理論の新展開
Publicly Offered Research
Project Area | Materials Design through Computics: Complex Correlation and Non-equilibrium Dynamics |
Project/Area Number |
25104705
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
合田 義弘 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50506730)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 物性理論 |
Research Abstract |
局在電子と遍歴電子を統一的に記述する事はより高精度な第一原理計算を目指す上で重要なポイントであるが、広く使われているDFT+U法は酸素の2p電子の様に局在の度合いが中程度の電子状態に対しては用いる射影状態の広がりに応じて占有数が変化する等問題がある。今年度は電子の高精度化のアプローチの一つとしてハイブリッド密度汎関数法を検討した。ハイブリッド密度汎関数理論は比較的低コストの計算負荷と精度向上の両立が期待されており、電子励起・光吸収の第一原理計算においてよく用いられている。まず、ハイブリッド密度汎関数理論の金属の適用可能性を検討した結果、Fermiエネルギーで状態密度がゼロとなる事実は電子の粒子としての離散性による要請であるものの、その特異性によりエネルギーがFermiエネルギーから少しでもずれると電子状態密度は通常のDFTと同じオーダーまで増加するため原則問題とならない事を確認した。また一般化されたKoopmansの定理を活用する事により、一粒子準位の満たすべき厳密な条件を用いてハイブリッド密度汎関数における混合パラメーターを第一原理的に決定した。その結果、歪んだ岩塩構造を取る電荷移動型絶縁体であるタイプII反強磁性状態のNiOでは、バンドギャップの値が通常のGGA-PBE汎関数およびHybrid-HSE汎関数と対照的に、非占有3d状態のエネルギーが実験値とコンシステントとなった。また、混合パラメーターと電子の局在性の度合いの関係について検討し、遍歴性の強いbcc Feでは混合パラメーターがほとんどゼロとなる事、イオン性の強い酸化物絶縁体中では半導体中の点欠陥状態よりも混合パラメーターが大きくなる事を見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書に記載した通り、電子系の全エネルギーに対する電子数依存性を検討した。その結果、一般化されたKoopmansの定理を活用し、一粒子準位の満たすべき厳密な条件を用いてハイブリッド密度汎関数における混合パラメーターを第一原理的に決定する事を可能とした。これは課題の中間目標の達成と考えられる。また、混合パラメーターは状態毎に依存するものの、典型的な物質群に対しては単一のパラメーターの使用で差し支えない事を示した。また、スーパーコンピューターを用いた数値計算によりハイブリッド汎関数を用いた計算による計算結果のユニットセルサイズ依存性・k点サンプリング数依存性をbcc鉄に対して検討した。この様な基礎的な数値収束性の検証は今後の課題遂行に対する基礎となり重要である。以上の事項を勘案すると、平成25年度の事業計画目標は本質的に達成されていると言える。同時に、研究計画策定当時には想定されていなかった問題も明らかになってきたので、平成26年度はその問題に柔軟に対処するべく別記の通りの方策に従い今後の研究を推進する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究実施により、状態毎に混合パラメーターを第一原理的に見積もる事を可能とし、電荷異動型Mott絶縁体に対して電子状態計算の精度向上を達成したが、少なくともある物質群、具体的にはMott-Hubbard絶縁体、に対しては、状態毎に混合パラメーターが大きく異なる事が問題となる事が分かった。従って、Mott転移の記述も可能にする事は現状では不可能であり、元の研究計画の様にハイブリッド汎関数による応用計算を実行する前に、ハイブリッド汎関数の磁性金属への適用可能性・発展可能性をさらに検討する必要がある。この問題を克服するための一つの可能性として、DFT相関項とMP2相関項を混合する2重ハイブリッド法の応用が有効であると考えられるが、当該手法は計算コストが非常に高く単純に既存の2重ハイブリッド法を適用するのは現実的とは考えにくい。以上の理由により、今後の研究の推進方策としては、引き続きハイブリッド密度汎関数理論の発展の可能性を検討すると同時に、既存の理論も含めた様々な手法による磁性金属の第一原理計算を実行し、磁性金属材料の電子状態の理解を深化させる事を計画している。具体的には、昨年度原子サイト毎に磁気異方性の寄与を分解する方法を開発し、バルク磁性体に適用する事によりその有効性を確認したため、今年度は磁気異方性計算のターゲットとして磁性材料界面・ナノ構造を取り上げ本手法を適用し、界面等における局所的な磁気異方性の効果を定量的に明らかにする事を目指す。
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