2013 Fiscal Year Annual Research Report
格子QCDによるハイペロン相互作用の研究とハイパー核への展開
Publicly Offered Research
Project Area | Nuclear matter in neutron stars investigated by experiments and astronomical observations |
Project/Area Number |
25105505
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
根村 英克 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (80391738)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ハイペロン核子相互作用 / ハイパー核 / ストレンジネス / 少数多体問題 / 量子色力学 / 格子QCD / 核力 / エキゾチックハドロン |
Research Abstract |
本研究課題は、中性子星のような高密度核物質の理論的研究の基礎となるハイペロン相互作用の性質を、なるべく現実に近いクォーク質量領域での格子QCD計算から調べ、さらにその結果を少数粒子系の精密計算に適用することにより、中性子過剰ハイパー核を含む最新の実験データとも比較することによって、ストレンジネスを含んだ一般化核力の性質を、これまで以上に定量的に明らかにしていくことを目指すものである。 より具体的には、なるべく物理点に近いクォーク質量領域において大きな空間体積を持った格子QCD計算を行い、ラムダ核子相互作用並びにシグマ核子相互作用の性質を、中心力、テンソル力、スピン軌道力について調べることである。また、格子QCD計算から得られたポテンシャルを用いて、軽いハイパー核の精密計算を実行し、ハイペロンポテンシャルが軽いハイパー核の結合エネルギーの実験値を矛盾無く説明できるかを調べる。さらには、こうした点を踏まえて、中性子過剰ハイパー核などの、よりエキゾチックな系の精密計算を実行し、ハイパー核の理論研究を、これまでの通常核や中性子過剰核の研究で行われている精度にせまるほどの理論研究をハイパー核でも進めていくことを目指す。 平成25年度は、特に格子QCD計算部分の基本的な数値計算手法の開発に注力して研究を進めた。現実に近いクォーク質量領域での格子QCD計算では、フレーバSU(3)対称性の破れを直接扱う必要があるため、計算するべきチャネルが膨大になり、その各チャネルの計算を系統的に効率よく行うことが求められる。本研究の遂行には大型計算機の使用が不可欠であるため、大型計算機上の計算効率の向上は、全体の研究の進捗を左右する重要な要素であるが、BlueGene/Qなどの大型計算機で効率よく動く、C++で書かれたプログラムの作成に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
格子QCDによるラムダ核子、シグマ核子相互作用の研究のためには、これらのチャネルの4点相関関数(Nambu-Bethe-Salpeter波動関数)を計算する必要があり、なるべく現実に近いクォーク質量領域の計算を、相互作用の到達距離が収まる程度に大きな体積で行わなくてはならず、この部分の格子QCD計算は大規模にならざるをえないため、大型計算機の利用は必須である。共用されている大型計算機では利用できるCPU時間は限られているので、この計算を効率よく実行することは、本研究課題における重要なポイントの一つである。 そこで、平成25年度は、高エネルギー加速器研究機構大型計算機センター、筑波大学計算科学研究センターを利用し、NBS波動関数を求める際の数値計算の主要部分(Wich contractionを計算する部分)のアルゴリズムの抜本的な整備をまずすすめた。ラムダ核子、シグマ核子系のように複数のNBS波動関数を、一度の計算で同時にかつ効率よく計算することのできるアルゴリズムを開発した。具体的には、クォーク演算子の内部自由度とフェルミ統計性に起因する演算の繰り返しの回数を、unified contraction法よりも数分の一程度に短縮することに成功した。C++で書かれたプログラムとして実装することにも成功している。さらに、このC++プログラムは、格子QCD共通コード(Bridge++)と組み合わせて計算することが可能である。大型計算機としてBlueGene/Q上で、分散メモリ用の並列処理(MPI)と共有メモリ用の並列処理(OpenMP)を同時に利用したハイブリッド並列実行が可能であり、MPI並列数とスレッド並列数の様々な組み合わせにおいて安定して効率よく計算が行えることを確認した。これらの成果について、平成25年のLATTICE国際会議でポスター発表を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
格子QCD計算については、なるべく現実に近いクォーク質量領域で、かつ相互作用の到達距離が収まる程度に充分大きな空間体積を持つような計算を引き続き行う。その際、使用する計算機に応じて、必要であれば、さらに詳細なプログラムのパフォーマンスチューニングを行う。 ハイパー核の少数多体系の原子核構造計算は、確率論的変分法によって行う。これは、基底関数の空間部分を相関ガウスおよびグローバルベクトルによって表現するものであり、他のガウス基底関数展開による方法に比べてより大きな質量数を持つ系への適用が容易であるという特徴を持つ。例えばΛΛーNΞーΛΣーΣΣの結合チャネルによる6体計算が可能である。プログラムは担当者が自ら作成しFORTRANで書かれており、MPIによる並列計算も既に実装されている。共有メモリ型の並列計算用のプログラム開発も、必要であれば進めていく。
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