2013 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属配位圏でのシリル転位を引き金とする脱カルコゲン触媒反応の開発
Publicly Offered Research
Project Area | Stimuli-responsive Chemical Species for the Creation of Functional Molecules |
Project/Area Number |
25109538
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
中沢 浩 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00172297)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 脱硫反応 / シリル基転位反応 / 鉄カルベン錯体 |
Research Abstract |
本年度は、鉄シリル錯体 (CpFe(CO)2Me) を触媒として、二級チオアミド (RHNC(S)R’) とヒドロシラン (Et3SiH) との反応を検討した。その結果、主生成物としてイミン(RN=CHR’) が生成することを見出した。この反応では二級チオアミドの脱硫反応に加えて、水素移動反応が進行していることが分かった。二級チオアミド (RHNC(S)Ph) とCpFe(CO)(py)(SiR’3) との当量反応により、鉄カルベン錯体である CpFe(CO)(=CR(Ph))(SSiR’3) の単離およびX線構造解析に成功した。単離したこの鉄カルベン錯体を触媒として二級チオアミドとヒドロシランの反応を検討したところ、イミンが生成した。これより、鉄カルベン錯体が触媒反応の中間体であることが明らかとなった。これらの実験事実をもとに、以下の触媒反応機構を提案した。真の触媒活性種である16電子鉄錯体 (CpFe(CO)(SiR’3) に二級チオアミドのC=S二重結合部位が鉄に2-配位した後、鉄上のシリル基がチオアミドの硫黄原子に転位してFe-S-Cの三員環錯体が生成する。その後、S-C結合の鉄への酸化的付加が起こり、鉄カルベン錯体が生成する。これらの研究成果はOrganometallics, 2013, 32, 2889-2892に掲載された。 また、鉄シリル錯体 (CpFe(CO)2Me) を用いてチオ尿素 (RHNC(S)NHR) とヒドロシラン (Et3SiH) との反応を検討したところ、カルボジイミドが生成することを見出した。この反応においては、チオ尿素の脱硫反応に加えて、脱水素反応も起こっている。反応機構に関する検討を行い、この反応においてもまずチオ尿素のC=S 結合が鉄中心に2-配位した後、鉄上のシリル基のチオ尿素の硫黄原子への転位、S-C結合の酸化的付加による鉄カルベン錯体が生成の経路により反応が進行することを明らかにした。この研究成果はDalton Trans., 2013, 42, 10271-10276 に掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々の研究室では今までに遷移金属配位圏内でのシリル基転位反応を引き金とした、RC-CN, R2N-CN, RO-CN結合の触媒的切断反応、ならびにホルムアミドのC=O、チオホルムアミドのC=S結合の触媒的切断反応を開拓してきた。これらの結合は強い結合で、通常は切断が困難である。その強い結合を選択的に切断できるのは、遷移金属配位圏内で容易に起こるシリル基転位反応(Silyl-Migration-Induced Reaction;SiMI Reaction)に起因していることを明らかにしてきた。 本研究では、この反応の一般性ならびに適応範囲を調べると共に、遷移金属配位圏という錯体化学、シリル基転位という典型元素化学、そして脱カルコゲン反応という有機化学の融合分野の新たな展開を図った。 今年後は二級チオアミドとの反応においては、強いC=S結合の切断に加えて水素移動反応が同時に進行し、またチオ尿素との反応においては、強いC=S結合の切断に加えて脱水素反応が同時に進行するという新しい反応を見出した。後者の反応で生成するカルボジイミドは脱水剤として広く用いられている有用な化合物である。チオ尿素をカルボジイミドに変換する反応は、工業的には水銀や鉛といった環境負荷の大きい試薬を用いて行われているが、本研究で見出した反応では鉄錯体を用いているので、工業的にも有用な反応と言える。加えて、いずれの場合も遷移金属カルベン錯体が反応中間体となっていることを、錯体の単離、構造解析により示すことができた。従って、当初の目的は十分に達成したと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
遷移金属配位圏内で容易に起こるシリル基転位反応(SiMI Reaction)は、通常では切断の困難な強い結合を効率的に切断できるので、有用な反応であり、さらなる展開が期待できる。今後はこのSiMI反応をイソシアネート(RNCO)のC=O結合切断、およびイソチオシアネート(RNCS)のC=S結合切断に応用する。現在までにイソシアネート(RNCO)やイソチオシアネート(RNCS)と種々の試薬との反応により、R-C結合の切断や、C=O結合あるいはC=S結合へ付加が進行する反応の報告はいくつかあるが、C=O結合およびC=S結合の切断に関する報告はほとんどなく、その報告例も化学量論反応が知られているのみである。シリル転位反応を引き金とした触媒的切断反応という我々が開発したコンセプトを用いて、遷移金属錯体を触媒とするイソシアネートのC=O結合切断反応ならびにイソチオシアネートのC=S結合切断反応の実現を目指す。 さらに、エステル、エノン、酸無水物、酸塩化物、の脱酸素反応、およびそれらのチオ誘導体の脱硫反応の検討を行い、触媒反応への展開を試みる。含硫化合物の脱硫反応を、遷移金属を用いて実現することは通常は難しい。それは硫黄原子が遷移金属錯体活性種に容易に配位子、その触媒活性を低下あるいは停止させてしまうからである。つまり含硫化合物は多くの触媒反応に対して触媒毒として働くためである。我々の開発した鉄錯体を用いたSiMI反応は、硫黄原子の触媒毒作用に対して耐性があることがわかってきている。従って、種々の含流化合物に対する脱硫反応に有効であると考えているので、それらの反応をメインに開発していくことを計画している。
|