2013 Fiscal Year Annual Research Report
放射光ナノビームX線分析による大気粉塵中の放射性物質の起源解明
Publicly Offered Research
Project Area | Interdisciplinary Study on Environmental Transfer of Radionuclides from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident |
Project/Area Number |
25110510
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
中井 泉 東京理科大学, 理学部, 教授 (90155648)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 福島第一原子力発電所事故 / 放射光応用 / 放射性物質 / 環境動態 / 蛍光X線分析 / X線吸収端近傍構造分析 / 粉末X線回折分析 / 起源解明 |
Research Abstract |
福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質の性状解明を目的として,事故直後につくばで捕集された放射性大気粉塵粒子の放射光マイクロビーム複合X線分析を行った。この粒子は電子顕微鏡を用いた先行研究により,Csを含む直径2マイクロメートル程度の球形粒子であることが明らかとなっている。この粒子に対して,1粒子レベルで蛍光X線分析(XRF)による化学組成分析,X線吸収端近傍構造分析(XANES)による化学状態分析,粉末X線回折分析(XRD)による結晶構造分析を行い,詳細な化学的性状を調べた。 マイクロマニュピレータを用いて,大気粉塵フィルターから3点の放射性大気粉塵粒子を採取した。XRFの結果,粒子からは微量のUが検出された。さらにCs以外にも様々な重元素が含まれることが明らかとなり,その大部分は核燃料であるUの核分裂生成物に起源づけられた。この結果から,核分裂生成物の中でも沸点の低いCsやIのみが高温で揮発して大気中に放出されたという従来説を覆し,核燃料であるUとその核分裂生成物が炉の内部またはごく近傍から直接的に微小粒子として大気中へと放出されたという結論が導かれた。 粒子に含まれる遷移元素についてXANESによる化学状態分析を行ったところ,いずれも高酸化数の状態で存在していることが明らかとなった。この結果は,この粒子が酸化的な雰囲気で生成したことを示している。さらにXANESのスペクトル形状を参照物質と比較した結果,粒子中の元素がガラス状態で存在していることが分かった。さらに粒子そのものの結晶性を調べるためにXRDを行ったところ,回折ピークは検出されず,非晶質であることが示された。 本研究により,核燃料のUとその核分裂生成物を含む放射性粒子が事故により大気中に放出され,福島原発から170キロメートル離れた関東のつくばにまで到来していたという事実が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では,放射性大気粉塵が捕集されたフィルターをそのまま放射光施設で分析する予定であった。この場合,フィルター上に捕集された無数の大気粉塵粒子の中から目的の放射性粒子を見つけ出すことが最大のネックであり,分析上の課題であった。しかしマイクロマニュピレータを用いることで,フィルターから放射性大気粉塵粒子のみを摘出し,1粒子単位で分析することが可能となった。これによって分析上の課題の大部分がクリアされたと言える。 実際に摘出された放射性粒子に対して3種類の分析法(XRF,XANES,XRD)を適用した結果,その化学的性状に関する非常に多くの情報が得られたことから,本研究で着目した放射光マイクロビームX線分析の有用性が実証されたと言える。特に粒子中に微量ながらUが存在することが解明できた点は特筆すべき成果の一つであり,XRFによるUの検出だけに留まらず,UのXANES分析からも粒子中のUの存在を示すことができた。また本研究のXANESおよびXRDから明らかとなったこの粒子がガラス状態であるとする知見も,Cs以外の核分裂生成物が粒子中に含まれていたというXRFの分析結果と合わせて,粒子の生成・放出過程を理解する上できわめて重要な情報である。 このように,放出された放射性大気粉塵自体の性状解明に留まらず,事故当初の炉内の状況や事故原因の解明にも繋がる有益な知見が数多く得られた。さらに本研究で得られた知見は,放出された放射性物質の環境中での動態のシミュレーションにおいても重要な1次情報になるものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度の研究によって,直径数マイクロメートルの微小粒子に対する放射光マイクロビーム複合X線分析の有用性が明らかとなり,試料調製法も含めて,基本的な分析技術は確立されたと言える。今後の方針として,確立されたこの分析法を問題の放射性大気粉塵へと適用し続けるだけでなく,他の様々な試料へと応用する。得られたデータから,福島第一原発事故により放出された放射性物質の実態と影響をより正しく評価する。 第一に,より福島第一原発に近い地域に飛散した放射性大気粉塵を分析する。当該年度で分析対象とした大気粉塵粒子は原発から100キロメートル以上離れたつくばで捕集されたものであるが,より原発に近い地域には,本研究で分析した粒子とは異なる性状を持った放射性大気粉塵粒子が飛散していた可能性が考えられる。そこで実際に福島県内の規制区域に立ち入り,放出されてから今日まで環境中に残存し続けている放射性物質を採取する。当該年度に分析した粒子と化学的性状を比較することで,放出された放射性物質とその放出過程に関して,より正確な理解を目指す。 第二に,飛散した放射性大気粉塵が付着した植物,特に農作物を分析する。原発近郊に生育した植物には,イメージングプレートを用いたオートラジオグラフィによって,粒子状の放射性物質が付着していることが明らかとなっている。これは事故直後に限定したことではなく,放出後の再飛散,あるいは事故後の作業等に伴う漏洩によって,今日も継続している問題である。付着した放射性物質は表皮や根を介して植物体内へと吸収される可能性が指摘されている。そこで植物に付着した放射性粒子を採取・分析し,当該年度に対象とした大気粉塵と同様の方法で化学的性状を明らかにする。
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Research Products
(4 results)