2013 Fiscal Year Annual Research Report
クライオ顕微質量分析によるリグニン生合成前駆物質の輸送と貯蔵の可視化
Publicly Offered Research
Project Area | Plant cell wall as information-processing system |
Project/Area Number |
25114508
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
福島 和彦 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (80222256)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 細胞壁 |
Research Abstract |
1) 低温二次イオン質量分析(cryo-TOF-SIMS)によるリグニン前駆物質の分布可視化 リグニン前駆物質であるコニフェリンについて、その局在状態をcryo-TOF-SIMS分析および低温-走査電子顕微鏡観察(cryo-SEM)により、細胞単位での分布可視化に成功した。コニフェリンは木部の形成段階に応じてその分布様式および存在量を変化させていたため、細胞壁の形成過程確認、リグニンの沈着状況評価、各細胞の同定、およびコニフェリンの定量分析などを行う必要があった。そのため同一のサンプルについて、cryo-TOF-SIMS/SEMに加えて偏光顕微鏡、UV顕微鏡、クロマトグラフィー分析などを適用して、総合的な分析を行うための実験・分析手順を確立した。 2) 凍結試料中に存在する分子の定量法開発 各種標的化合物の水溶液を凍結させ、cryo-TOF-SIMS分析に供したところ、凍結されている標的化合物は、付近に存在する水分子および無機金属の影響を強く受け、乾燥状態とは大きく異なったイオン化挙動を示すことがわかった。植物中のコニフェリンやスクロースといった水溶性成分について、クロマトグラフィー分析による定量分析を行い、cryo-TOF-SIMS分析によって得られる二次イオン量との比較を行った。結果より、cryo-TOF-SIMS分析によって得られる二次イオン量は、相対的な存在量比較のための指標として利用できる可能性が示唆された。 TOF-SIMS分析においては測定試料表面の立体形状がイオン化挙動に大きく影響を与えることがわかっており、樹木試料を対象とした場合には大きな課題となっていた。しかしながら凍結樹木試料を表面切削して平滑な表面を測定に供することにより、分析の安定性が大きく改善されているものと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
リグニン前駆物質が局在していることについて、cryo-TOF-SIMS/SEM測定により、細胞レベルでのマッピングを作成することが可能であった。しかしながらそれらの細胞がどのような形成段階にあるのかについて、当該システムのみから判断することは難しかった。そのため、同一試料について、偏光顕微鏡、UV顕微鏡、クロマトグラフィー分析などを同時に行う必要が生じた。この新たな課題について、他分野の専門家の助力を得ながら議論、実験を重ねた。結果より、様々測定法に試料を供するための実験・分析手順を確立することができた。 凍結試料中の分子の定量法に関しては基礎的な検討を続けている。表面が平滑な凍結試料に関しては、乾燥状態の樹木試料と比較して、相対的な存在量比較が可能であることが示唆されており、当該システムのメリットを示すことができた。 当該年度のこれらの結果に関して、国内学会誌へ技術報告論文を発表した。また様々な研究会から招待講演の要請を受けた。当該学術領域内で共同研究を前提として具体的な実験計画・議論を重ねることで、より応用力の高いシステムへと進展しつつある。以上の発展的状況を踏まえて、当該研究課題が順調に進展しているものと判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度に確立された実験系を、今年度のサンプルに対して適用し、細胞壁の形成とリグニン前駆物質との相関関係を包括的に可視化する。また第二年度では適用する樹種を増やし、「植物細胞壁」に関する幅広い知見を蓄積する予定である。具体的に、初年度はイチョウを用いて実験を行った。第二年度ではスギ、コブシについてサンプルを準備中である。また当該学術領域内での共同研究により、各種培養植物についても検討予定である。 凍結試料中の特定化合物の定量法に関して、初年度までに明らかになった”凍結”マトリクス効果を最大限に活用するため、測定条件の再検討を行う。これまでcryo-TOF-SIMS分析における一次イオン源のパラメータは、乾燥試料に対して設定されてきたものをそのまま流用していた。しかしながら、周囲を水分子で覆われ、凍結されているという状態がマススペクトルに与える影響が非常に大きかったことを踏まえ、より凍結状態へと適した分析パラメータの探索を行う。具体的には一次イオンのパルス間隔あるいはエネルギー量の増減、クラスターイオン化などについて検討を進める。
|
Research Products
(13 results)