2013 Fiscal Year Annual Research Report
RNAウイルスの進化的脆弱性に関する研究
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular basis of host cell competency in virus infection |
Project/Area Number |
25115519
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
佐藤 裕徳 国立感染症研究所, その他部局等, 室長 (80260272)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | RNAウイルス / カプシド蛋白質 / 変化の制約 / 免疫学的弱点 / 情報科学 / ランダム行列理論 |
Research Abstract |
数学・物理学の理論、及び計算科学や情報科学の手法を用いて易変異性RNAウイルスの変化の制約や未知の機能部位を明らかにし、進化上の弱点を特定することを目的とする。 平成25年度(研究初年度)は、ノロウイルスの粒子表面に存在する可変性構造蛋白質(カプシド)に働く変化の制約を検証した。ノロウイルス全国流行株の全ゲノム情報を収集し、ゲノムと蛋白質の経時変化を調べた。その結果、ゲノム配列や他の構造蛋白質は年々多様性が増大する一方で、カプシドはほとんど変化しないことを見出した。さらにハミング距離を調べることで、カプシドの高度可変部位にも強い変化の制約が働くことを示した。さらにランダム行列理論を用いて必然的に共変異するアミノ酸群が存在することを明らかにし、単独の変異を許容しないアミノ酸残基ネットワークが存在することを示した。以上の結果から、一部のウイルス株が勝利者(全国流行株)となると、その後はカプシドの変化が必然的に強く抑制されることがわかった。流行株カプシドの優れた構造・機能(免疫逃避能や宿主指向性)を維持するためと考えられる。カプシドは抗体の主要標的であることを勘案すると、ノロウイルス流行株は免疫学的制御が可能と考えられる。実際に、この流行株は数年間流行した後に衰退した。カプシドが変化できないため、この株への集団免疫が強化されるに従い、感染感受性の宿主が減少したためと考えられる。 これらの発見は、一般に高度可変とされるノロウイルス粒子表面蛋白質にも、自然界では強い変化の制約が働くことを世界で初めて明らかにしたもので、新しい視点でのウイルス学研究の創成につながる。また、流行株の免疫学的弱点を示唆するもので、ウイルスとヒトとの攻防を理解し、ノロウイルス感染症の制御法を論理的に開発するための基盤情報となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.当初の予定どおり、数学、計算科学、情報科学の解析手法を取り入れながら研究を進め、一般には高度可変とされるノロウイルス粒子表面の構造蛋白質に、自然界において強い変化の制約が働くことを立証できた。成果は国内外の学会で発表し、論文にまとめて投稿した(審査中)。学際的なアプローチを取り入れることで、ノロウイルス蛋白質の構造・機能・進化の研究に新しい視点を導入したと考えている。 2.当初の計画には無かったが、領域内の共同研究を進めた。我々の研究を通じて強化される数学、計算科学、情報科学の解析基盤を領域内の他の研究グループに利用してもらうことにより、領域内の研究推進への貢献を目指した。俣野研究グループ(霊長類動物モデル)と共同研究を実施し、ウイルス変異の包括的解析(次世代シークエンサーの使用と解析)を支援し、ウイルスの変異蛋白質の構造特性情報を提供した(J. Virol. 88:3598-3604, 2014)。また、連携研究者とも共同研究を実施し、ウイルス蛋白質の構造特性情報を提供した(J. Virol.87:11447-11461, 2013, J Virol. 87:5424-36, 2013)。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度研究で、ウイルス粒子表面の可変性蛋白質にも強い変化の制約が働くことが明らかになった。そこで平成26年度以降は、変化の制約を司る要因について解析を進め、当初の研究目的(進化上の弱点の検証)の達成をめざす。 平成26年は、(1) –(5)を進める。(1)公共データベース等の大容量アミノ酸配列情報を基に相互相関行列を構築し、共変異する部位を包括的に抽出する。(2) 蛋白質立体構造の分子動力学計算情報を基に揺らぎの相互相関行列を構築し、溶液中で連動して揺らぐ部位を包括的に抽出する。(3) ランダム行列理論を用いて偶然による見かけの相関を排除する。(4)固有ベクトル成分の分析により、必然性をもって共変異する、あるいは揺らぐアミノ酸群(セクター)を同定する。これらは、蛋白質の機能的ネットワークを形成し、進化の方向性を司る部位で、進化の制約の要因になる。(5) 情報科学の手法を用いてセクターの可変性を調べる。(6)変異導入解析等を用いてセクターの生物学的役割を調べる。(7)分子動力学法を用いてセクターの構造学的役割を調べる。以上により、ウイルスの粒子表面蛋白質について、セクターの有無、並びにセクターの構造、機能、可変性の情報を収集する。それらの情報を用いて、ウイルスに固有の生存戦略を維持するために「必然的に」変化しにくい蛋白質領域の存在を検証する。 一方で、引き続き領域内の共同研究を推進し、我々の研究グループの汎用性の高い解析プラットフォームを他の研究グループに利用してもらうことにより、領域内の研究推進への貢献を目指す。
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Research Products
(7 results)
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[Journal Article] Tertiary mutations stabilize CD8+ T lymphocyte escape-associated compensatory mutations following transmission of simian immunodeficiency virus2014
Author(s)
Burwitz BJ, Wu HL, Reed JS, Hammond KB, Newman LP, Bimber BN, Nimiyongskul FA, Leon EJ, Maness NJ, Friedrich TC, Yokoyama M, Sato H, Matano T, O'Connor DH, Sacha JB
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Journal Title
Journal of Virology
Volume: 88
Pages: 3598-3604
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Generation of rhesus macaque-tropic HIV-1 clones that are resistant to major anti-HIV-1 restriction factors2013
Author(s)
Nomaguchi M, Yokoyama M, Kono K, Nakayama EE, Shioda T, Doi N, Fujiwara S, Saito A, Akari H, Miyakawa K, Ryo A, Ode H, Iwatani Y, Miura T, Igarashi T, Sato H, Adachi A.
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Journal Title
Journal of Virology
Volume: 87
Pages: 11447-11461
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] Selective constraints on changes of a norovirus pandemic lineage GII.4_2006b2013
Author(s)
Sato H, Yokoyama M, Motomura K, Nakamura H, Oka T, Katayama K, Takeda N, Noda M, Tanaka T, and the Norovirus Surveillance Group of Japan
Organizer
The Fifth International Calicivirus Conference
Place of Presentation
Beijing, China
Year and Date
20131012-20131015