2013 Fiscal Year Annual Research Report
先天的情報と後天的情報を繋ぐ神経活動依存的遺伝子発現機構
Publicly Offered Research
Project Area | Mesoscopic neurocircuitry: towards understanding of the functional and structural basis of brain information processing |
Project/Area Number |
25115717
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安部 健太郎 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70462653)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 脳・神経 / 遺伝子 / 環境 / マイクロアレイ / 発達 |
Research Abstract |
多くの動物の発生・発達はゲノム上の情報である「先天的な情報」により自発的に成し遂げられるが、キンカチョウなど鳴禽類に属する一部の鳥類はこれらに加えて「後天的情報」、特に生後に接する社会環境に依存し、獲得する音声能力の質に違いが出ることが知られている。このように、社会環境依存的に動物の能力の発達が影響されるメカニズムを明らかにすることはヒト幼児の成長や発達、人格形成、またはヒト成人においても経験依存的な技能獲得を明らかにするために重要である。本研究では、キンカチョウ幼弱固体において生後の社会環境によって脳で発現レベルが変動する遺伝子群を明らかにし、それらを制御する転写制御因子を明らかにし、後天的な情報を受けて獲得する能力の発達メカニズムを明らかにすることを目的とする。 本年度は、マイクロアレイ法により、網羅的に発達途中の幼弱キンカチョウの遺伝子発現プロファイルを比較し、生後環境依存的に発現が変化する遺伝子群を明らかにした。また、それらのプロファイルの詳細な解析の結果、生後環境依存的な遺伝子発現を制御する転写制御因子を同定することに成功した。さらに、同定した転写制御因子の機能を阻害する分子を発現させたキンカチョウを作成した結果、その転写制御因子によって制御されうる遺伝子の発現に影響が見られ、個体レベルでは音声獲得能力に影響が見られることを見出した。また、キンカチョウ脳内において同定した遺伝子転写制御因子の活性を定量的に確認する手法を開発し、転写調節因子の活性が実際に影響されていることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究成果によりキンカチョウの生後の経験依存的な遺伝子発現や能力発達に寄与する転写制御因子を少なくとも1つ同定し、生体内においてその活性を定量する手法を開発した。また、その転写制御因子が生後能力発達に及ぼす機能を明らかにすることに成功した。これは本研究計画の目的の1つを達成するのに十分なものといえる。また、生体内において内在の転写因子の活性を定量的に比較する手法は本研究にとどまらず他の研究に対しても幅広く応用可能なものである。本年度のもう1つの研究実施計画である生後環境による神経回路の変化の解析については研究を遂行中であり、結論を得るまでに更なる個体数が必要であり、来年度も解析を持続する。これらの理由から本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果によりキンカチョウの生後の経験依存的な遺伝子発現や能力発達に寄与する転写制御因子を同定した。一方、生後の音声経験はこれ以外の転写因子も活性が変化すると考えられる。これは、今回同定した転写制御因子の活性制御による能力発達は一面的なものを見ているに過ぎない可能性を示唆し、これに加え、他の遺伝子発現制御因子の関与も検討することで、より多面的かつ綿密な能力発達が制御できると考えられる。本年度に得られたデータを基にさらに解析することで、さらなる転写制御のメカニズムを明らかにすることができると考えられる。また、本年度に同定した因子に関して、それらの活性がどのように生体内で変化するのかを明らかにすることにより、後天的な情報を受けた能力発達のメカニズムについて更なる詳細が明らかになることが期待され、今後研究を持続する。
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