2013 Fiscal Year Annual Research Report
スピロヘータの推進力発生メカニズム
Publicly Offered Research
Project Area | Harmonized supramolecular machinery for motility and its diversity |
Project/Area Number |
25117501
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中村 修一 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90580308)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | スピロヘータ / 細胞運動 / レプトスピラ / 運動マシナリー / 抵抗力理論 |
Research Abstract |
本研究では、らせん形細菌レプトスピラの推進力発生メカニズムの解明を目的として、以下の3点について研究を行った。 <3次元運動解析システムの構築>暗視野顕微鏡で得られた一次暗視野像をビームスプリッターで2光路(光軸1、2)に分割し、それぞれの光路にレンズ(L1)を1枚ずつ置いて平行光とした後、さらにもう1枚ずつのレンズ(L2)を置き、カメラ素子上に拡大像を投影した。この時、光軸1のL1を光軸方向に動かすことによって、光路2とわずかに焦点がずれた像を得た。光軸1と光軸2の像は、同一のカメラ素子面上に並ぶように投影した。その結果、同一細胞について焦点の異なる2つの像を同時に観察することに成功した。本研究の成果は、第51回レプトスピラ・シンポジウム(2014年3月29日開催)で発表した。 <運動パラメータの計測>平成25年度は斜光暗視野照明法によって得られた2次元動画の解析を行った。細胞前方末端の左巻きらせん(S-end)、細胞中心の右巻きらせん(PC)、細胞後方末端の半円状構造の回転速度と細胞の遊泳速度を1細胞ごとに同時計測した。その結果、S-endとPCの回転速度がともに100Hz以上であること、レプトスピラのべん毛モーターが4,000 pN nm以上のトルクを発生できることなどを明らかにした。この成果は、Biophysical Journal(vol.106, p.47-54, 2014)に掲載された。 <ペリプラスムべん毛の構造解析>レプトスピラ細胞から単離したべん毛を透過型電子顕微鏡で観察したところ、収縮したバネのような環状構造であった。この結果は、過去の報告と一致するものである。細胞全体を氷包埋して観察するクライオ電子線トモグラフィ法(ECT)で細胞内におけるべん毛やモーターを観察することにも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、「らせん細胞運動パラメータの計測」「細胞表面の動態解析」「ペリプラスムべん毛の構造解析」を行うとして申請した。「らせん細胞運動パラメータの計測」では、レプトスピラのSpiral end(遊泳方向に対して前方末端)、Protoplasmic cylinder(PC、短波長の螺旋形を呈する細胞の中心部分)、Hook end(遊泳方向に対して後方末端)の運動パラメータを定量的に測定すること、2次元画像では判別が困難なH-endの回転方向を3次元顕微計測システムで解析することを目標としていた。運動パラメータ測定は斜光暗視や照明法により成功し、力学的モデルに基づく議論も行い、Biophysical Journalに掲載された。3次元顕微計測については、同一細胞の焦点の異なる2つの画像を同時観察することに成功した。しかし、得られた画像が未だ不鮮明な部分が多く、高精度な解析は未だ行うことができていない。今後、光学系の改良や光源の検討を行う必要がある。 「細胞表面の動態解析」については、細胞表面についた微粒子が、細胞の長軸に沿って移動する様子や、細胞外膜がガラスに吸着しているにも関わらず、細胞が回転運動を示すなど、膜の流動性を示唆するデータを得ることができた。「ペリプラスムべん毛の構造解析」については、単離したべん毛がバネ状構造を示すという以前の結果と一致する結果を得ることができた。また、培地にペニシリンGを添加したことによってペプチドグリカンの合成が阻害されたレプトスピラ細胞を、クライオ電子線トモグラフィ法によって構造解析したところ、ペプチドグリカンが存在しない部分でも、外膜だけでらせん形状を維持しているという興味深い結果が得られた。 以上の進捗状況を総合的に判断し、本年度の達成度を「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は、3次元顕微計測システムを用いた運動解析、外膜の動態解析、運動モデルの構築、突然変異体の運動解析、電子顕微鏡による構造解析を行う予定である。3次元顕微計測では、25年度に構築したシステムを用いて、細胞両末端の回転方向転換の瞬間を同時に解析し、両末端の回転の相関について明らかにする。この成果は、レプトスピラがおよそ10μm離れて存在するべん毛モーターの回転を制御して一方向に遊泳する仕組みの解明および運動モデルの構築に繋がることが期待される。外膜の動態解析は、外膜タンパク質LipL32抗体が修飾された金ナノ粒子をプローブとして行う予定である。まずは、ガラス表面に張り付いた細胞に対して金ナノ粒子を標識し、その動態を観察する。次に、遊泳中の細胞に対して金ナノ粒子を標識し、細胞の回転(細胞らせん軸に対する回転)と細胞膜の動態を同時に解析する。これまで定量的に解析されてこなかった外膜の動態を力学モデルに取り入れることにより、レプトスピラの運動メカニズムのより深い理解につながる可能性が期待される。突然変異の運動解析には、まず、走化性関連分子CheAに変異が生じた株を使用する予定である。レプトスピラのみならず、スピロヘータ類の走化性の仕組みには、未だ不明な点が多い。本研究では、走化性応答におけるリン酸基転移反応で重要な役割を果たすCheAに注目し、その欠損株が運動にどのように影響するかを調べる。また、走化性応答の制御分子であるCheYについても同様の実験を行う予定である。レプトスピラの遺伝子操作については、国立感染症研究所の小泉信夫博士の協力を得る予定である。構造解析は、大阪大学(加藤貴之博士)の技術支援のもと、クライオ電子線トモグラフィ法による細胞内べん毛および細胞外膜の解析を、25年度に引き続き行う予定である。
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