2013 Fiscal Year Annual Research Report
繊毛群のメタクロナールウェーブ伝達機構
Publicly Offered Research
Project Area | Harmonized supramolecular machinery for motility and its diversity |
Project/Area Number |
25117514
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
岩楯 好昭 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40298170)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | メタクロナールウェーブ / 繊毛 / 鞭毛 / ゾウリムシ |
Research Abstract |
生体組織の繊毛は1本1本が独立して運動しているにも関わらず,全繊毛はわずかな位相差を保ちながら同じ方向に屈曲する。そのため繊毛の屈曲は組織・細胞表面を波のように伝わる(メタクロナールウェーブ)。メタクロナールウェーブの伝達機構は,1本の繊毛が引き起こす水圧が隣の繊毛へ伝わり,隣の繊毛が運動を開始する,これを繰り返すことでウェーブができる,と推察されてきた。ところが,最近,我々はゾウリムシを使った実験によって,外液の水圧だけでなく細胞表層の弾性をも利用して伝達される可能性を見出した。本研究の目的はメタクロナールウェーブの伝達機構を解明することである。平成25年度,以下の項目を遂行した。 (1)ウェーブはどこを伝わるか ウェーブがもし外液の水流を介してのみ伝わるなら,水流を断絶すればウェーブは伝わらなくなるはずである。ケイジドCa2+ をあらかじめ導入されたゾウリムシの一部の繊毛にのみUVを当て,繊毛内部のCa2+ 濃度を上昇させ,その繊毛の屈曲方向を逆転させた。ウェーブはこの逆転箇所を超えて伝達した。このことからウェーブは細胞表層の弾性を利用して伝達されると考えられる。26年度は,ケイジド cAMP を用いてより広範囲で水流を断絶させた時ウェーブが伝わるかどうか検討し,ウェーブは細胞表層の弾性を利用して伝達されることを証明する。 (2)動作原理の数理モデルによる理論的考察 共同研究者の Dr. Keng-Hwee Chiam(シンガポール)氏によって,水流だけではなく細胞表層の弾性を考慮に入れたモデルが考案された。このモデルでシミュレーションを行ったところ,我々の実測データに近いウェーブの伝達過程が再現できた。平成26年度は,ケイジド cAMP より広範囲で水流を断絶させた時のシミュレーションを行ない,ウェーブの伝達機構を解明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,ゾウリムシを実験材料として,繊毛のメタクロナールウェーブの伝達メカニズムを解明するものである。研究目的の達成の進行を遅らせる可能性のあるものして,研究開始前に (1)遊泳しているゾウリムシの固定と薬剤の注入の難しさ (2)メタクロナールウェーブ観察系の確立の難しさ が考えられた。 (1)については,研究代表者がこれまでに行っていたゾウリムシの固定法,及び顕微注射法を用いることで,進行に遅延を起こすことはなかった。また,(2)については,水よりも粘性の高い溶液中で繊毛打のスピードを遅らせ,かつ,高速ビデオカメラを用いて撮影することで観察した。またケイジド化合物の光分解においては,紫外線源として水銀ランプを用いることで成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は25年度に引き続き以下の実験項目を遂行する。 1)ウェーブはどこを伝わるか(外液か細胞表層か)? (A)外液の水流の断絶でウェーブは止まるか? 平成25年度はケイジドCa2+ を用いてゾウリムシの一部の繊毛の屈曲方向を逆転させ,逆転箇所を超えたウェーブの伝達を観測した。我々はこのことからウェーブは細胞表層の弾性を利用して伝達されると結論づけたいが,繊毛逆転領域が狭すぎるため,完全には水流を遮断することができていないためウェーブが伝わったという批判を回避できない。ゾウリムシはCa2+ によって繊毛打方向の逆転だけではなく,細胞の収縮も起こしてしまうため,狭い領域でしか水流の遮断を起こせない。そこで,26年度は,ケイジド cAMP を用いてより広範囲で水流を断絶させた時ウェーブが伝わるかどうか検討し,ウェーブは細胞表層の弾性を利用して伝達されることを証明する。 (B)細胞の強制伸縮とウェーブ周波数の引き込み 細胞の両端を吸引ピペットで固定し,一方のピペットを適当な周波数で動かし,細胞を強制的に伸縮させる。伸縮の周波数を様々に変えた時、伸縮周波数にウェーブの周波数が引き込まれるか確かめる。もし引き込まれれば、細胞表層の弾性を媒介としてメタクロナールウェーブが伝達することが分かる。 2)動作原理は? (C)数理モデルによる理論的考察 共同研究者の Dr. Keng-Hwee Chiam(シンガポール)氏に依頼し,平成26年度は,ケイジド cAMP より広範囲で水流を断絶させた時,及び,人為的に細胞伸縮を様々な周波数で行った時のシミュレーションを行ない,実験データと比較する。シミュレーションと実験データが一致すれば,メタクロナールウェーブが細胞の弾性を利用して伝達する可能性を強く補強することができる。
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