2013 Fiscal Year Annual Research Report
糸状性光合成細菌クロロフレクサス アグリガンスの高速滑走運動を可能にする分子機構
Publicly Offered Research
Project Area | Harmonized supramolecular machinery for motility and its diversity |
Project/Area Number |
25117518
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
春田 伸 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (50359642)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 細菌 / マイクロマシン |
Research Abstract |
糸状性細菌 クロロフレクサス・アグリガンスの運動様式を理解することを目指し、特に本年度は、細胞の構造解析と運動に関わる遺伝子の同定に注力した。化学固定したクロロフレクサス・アグリガンスの細胞表層を走査型電子顕微鏡で観察したところ、細胞表面に特徴的な構造は確認できなかった。しかし、化学固定ではなく、細胞を液体窒素で瞬間凍結させて観察したところ、細胞表面の一部に直径3 nm程度の構造体を見出すことができた。一方、指数増殖しているクロロフレクサス・アグリガンスの糸状体細胞を、核酸染色剤で染色したところ、一つの糸状体でも染色される細胞とほとんど染色されない細胞が観察された。ひとつながりの細胞にも、細胞膜等の状態は不均一であることが示唆された。 運動性について、顕微鏡下での観察方法を確立し、糸状体の長さによる運動性の違いや細胞の凝集性を捉える準備が整った。また、滑走運動の足場を変更したとき、運動性に違いが現れることを見出した。 クロロフレクサス・アグリガンスの運動性は、外来性のプロテアーゼの添加によって促進されることを報告している。そこで、プロテアーゼがどのように本菌の運動性に影響しているのかを検討した。クロロフレクサス・アグリガンスの細胞を細胞形態が壊れない程度に穏やかにプロテアーゼ処理し、分子量約1万以上の高分子画分(プロテアーゼも含む)と低分子画分に分画したところ、低分子画分にも、運動性の促進効果が検出された。そこで、低分子画分をさらにゲルろ過クロマトグラフィーで分画した。分取した画分の中から活性画分を選択し、SDS-PAGEで分離して銀染色したところ、分子量3,000以下に複数のバンドが検出された。以上から、クロロフレクサス・アグリガンスの細胞から遊離したペプチドと考えられる低分子物質に、運動性を促進する作用があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
糸状性細菌 クロロフレクサス・アグリガンスについて、その滑走運動の機構を解明すべく、分子レベルおよび細胞レベルで多角的に研究を進めた。それによって、当初計画していたように、細胞表面に直径3 nm程度の構造体を見出すことができ、さらに糸状体を形成する細胞によって状態が異なることも示唆された。これは糸状体が直進する運動機構を理解する重要な手掛かりとなった。この細胞表面の構造体を同定するため、細胞表層の分取・精製を進めており、分取条件も確立しつつある。 プロテアーゼ処理による運動性促進機構の解析によって、クロロフレクサス・アグリガンスの運動性が低分子ペプチドによって制御されていることが示唆された。細胞表層構造との関連性や走性ともかかわる重要な知見を得ることができた。 本研究を進めるにおいて、顕微鏡による糸状体の滑走運動の観察は重要な技術となるが、本年度の研究により、観察方法を確立することができ、それによって運動の特徴を捉えることに成功している。糸状体が寄り添いながら、凝集体を形成することを初めて捉えることができたのは大きな成果である。 本菌のゲノム情報を解析したところ、IV型線毛と考えられるタンパク質をコードする遺伝子が見出された。これらの遺伝子の役割を解析するため、クロロフレクサス・アグリガンスの遺伝子組み換え系の構築に取り組んだが、効率的な系はまだ確立できていない。しかし、運動性を保ったまま、糸状体を物理的に分断する前処理条件を見出すことができたため、組み換え系の確立に大きく近づいている。
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Strategy for Future Research Activity |
糸状性細菌 クロロフレクサス・アグリガンスについて、分子レベルで、運動マシナリーを同定し、その構造と機能を明らかにする。また細胞レベルで、糸状体の各細胞が運動性を制御している機構を明らかにする。そのため、以下の研究項目を遂行する。 1) 遺伝子変異株の解析 クロロフレクサス・アグリガンスのゲノム情報から、滑走運動に関わると予想される細胞表面タンパク質、または、膜タンパク質、分泌タンパク質等をコードする遺伝子に変異を導入し、運動性や集塊形成性、外環境に対する応答性等に影響を与える遺伝子(領域)を同定する。また、トランスポゾンによるランダム変異株ライブラリーを作成し、運動性や付着性を試験する。 2) 運動にかかわる細胞表面構造体の解析 クロロフレクサス・アグリガンスのペリプラズムおよび細胞膜に発現しているタンパク質を同定する。各タンパク質の運動に関わる機能を推定する。また、一細胞内での発現分布、糸状体の各細胞における発現量の違いを明らかにする。さらに、培養条件、照射する光条件による分布の違いを明らかにすることで、運動器官を特徴づける。 3) 滑走表面との相互作用 これまでに、滑走する表面の電荷等の性質を変えると運動性が影響を受けることを明らかにしている。細胞表面全体および運動マシナリーについて、滑走する表面との物理的相互作用を明らかにする。また、アグリガンスは糸状体同士の接触による超高速の滑走も知られるため、細胞表面と無機物表面での滑走運動の違いを明らかにする。 以上のようにして得られる情報を統合し、各細胞の運動性について仮説を立て、それらをもとにコンピューターを用いたシミュレーションを行う。糸状体の運動機構の数理モデル化、実験的検証を繰り返し、糸状体全体の運動様式を記述する。
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Research Products
(3 results)