2013 Fiscal Year Annual Research Report
バクテリア滑走マシナリーの幾何学と力学
Publicly Offered Research
Project Area | Harmonized supramolecular machinery for motility and its diversity |
Project/Area Number |
25117526
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
和田 浩史 立命館大学, 理工学部, 准教授 (50456753)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 生体運動マシナリー / バイオメカニクス / 数理的力学モデル |
Research Abstract |
バクテロイデス細菌(F.ジョンソニエ)の滑走運動のマシナリーの理論的解明 25年度は、ジョンソニエの細胞表面を接着性タンパク質SprBが協同的に循環流動しているという実験結果に注目し、そこからどのようにして細胞の前後運動が生成しうるかということについて、「綱引き機構」(tag-of-war mechanism)に類似したシナリオを提唱した。それを1次元の理論的なモデルのかたちで数学的に表現し、そのモデルのもつふるまいを解析的および数値的に調べ、計算結果を実験データと定量的に比較・検証した。 具体的には、左巻きらせんのトラックにそって細胞の両極を行き来するSprBの速度成分のうち、前後運動に寄与する成分のみをかんがえ、対向するふたつのSprBの交通流がうみだす推進力について、確率過程を含む力学モデルを構築し、考察した。モデルによる計算結果は、多数のSprBがひとつの細胞表面を共有することによる大域的な結合のために、ある条件をみたすと自発的に系の対称性がやぶれ、細胞全体のマクロな運動が生じることを示している。このモデルが示唆する運動生成のメカニズムは「細胞表面においてSprBの流れが前後対称であるとしても、SprBの運度速度がある値以上であれば、たしかに細胞全体の一方向へのマクロな運動が自発的に生じる」ことを保証するものであり、これまでの実験結果を矛盾なく説明する。さらに、モデルによると、静止-運動転移(分岐点)の近傍では外場に対する細胞運動の応答が非線形なふるまいを示すことが予測される。細菌は、これをうまく利用して、ノイズの大きな環境においても、外部シグナルの変化を運動方向の選択に効果的に結びつけているかもしれない、ということを提案した。25年度はこれらの結果をまとめ、学術雑誌に論文として出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度の研究目標は、おおむね達成されたといえる。研究開始当初は、ジョンソニエ細胞表面で観測されたSprBの内部運動と、細胞の重心運動とを直接的に結びつける手がかりはほとんどなかった。しかしながら、25年度に提案したモデルは、実験的に確認されていない分子や構造をまったく仮定することなく、前後運動に関するすべての実験結果と矛盾しない説明をうまく与えるものである。25年度の研究計画は、萌芽的なアイデア段階にあったこのモデルのふるまいを詳細に調べ、その機構を実験結果と比較し、妥当性を検証することであったので、その目標は首尾よく遂行されたといえる。26年度の研究計画としては、25年度に提案した1次元モデルをさらに3次元に拡張し、前後運動を含むさらにバラエティにとんだジョンソニエの運動についても考察を深めることであり、その準備段階にあたる計算にかんしても良好な結果をえている。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度の研究の推進方針としては、25年度に引き続き、ジョンソニエ細胞の多様な運動モードを理論的に理解することを目指す。25年度に提案した1次元モデルをさらに3次元に拡張し、SprBの描くらせん軌道と細胞両極での折り返しを取り入れた、より現実的な計算モデルを構築し、そのふるまいを計算機を活用しつつ調べていく。前後運動だけでなく、フリップやピボットのような3次元的な運動を再現し、なぜひとつの細菌がこれほど多様で複雑な運動を行うことができるのか、その背後にどのような(願わくばシンプルな)メカニズムがあるのか、について、モデルの側からアイデアを提案していきたい。基盤からの立ち上がりがどのように起こるのか、まだよくわからないが、おそらく、極において多数のSprBの局在が生じていると考えられる。確率的にふるまう力生成の要素であるSprBが、細胞表面で交通渋滞を起こすことがあるような、より自由度の高いモデルに現在のモデルを改良していく必要がある。さらに、ひとつの細胞の運動だけでなく、実験的に観測されているジョンソニエコロニーの動的な渦パターン形成についても理論的な考察を行っていく。
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Research Products
(5 results)