2013 Fiscal Year Annual Research Report
肺炎マイコプラズマの接着滑走マシナリーの微細構造解明と構成タンパク質の構造解析
Publicly Offered Research
Project Area | Harmonized supramolecular machinery for motility and its diversity |
Project/Area Number |
25117530
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
見理 剛 国立感染症研究所, その他部局等, 室長 (80270643)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | Mycoplasma pneumoniae / 肺炎マイコプラズマ / 細胞接着 / 接着器官 / P1 タンパク質 / 滑走運動 / 細胞骨格 / 蛍光タンパク質 |
Research Abstract |
マイコプラズマ肺炎の原因菌 Mycoplasma pneumoniae は、菌体の片方に接着器官をもち、細胞接着性と滑走運動性を示す。接着器官の構造と細胞接着、滑走運動の分子メカニズムを知る目的で、接着器官を構成するタンパク質群の構造解析研究を進めている。本年度は接着器官の表面に存在する P1 と P30 タンパク質について、遺伝子組換えによる大量生産と結晶化の可能性を検討した。P1は 170kDaの大きな膜タンパク質で、この菌の主要な細胞接着分子だと考えられている。P30 は 30kDa の膜タンパク質で機能不明だが、P30 欠損株では、細胞接着性と滑走運動性が完全に失われるため、細胞接着と滑走運動に必須な役割をしていると考えられている。これまで M. pneumoniae の遺伝子組換えタンパク質の生産は、他の生物と異なる遺伝コードの存在のため、難しいことが多かった(M. pneumoniae は UGA コドンを Trp に翻訳する)。今回は UGA コドンを除去し、大腸菌での発現に最適化したP1遺伝子を合成して使用した。合成 P1 遺伝子を利用すると、大腸菌で P1 タンパク質全長を大量に発現させることができた。しかし、大腸菌の発現系では、P1 の分解産物もかなり生じるため、精製条件の検討に手間取り、結晶化スクリーニングはまだ行えていない。一方、P30 は N末端に膜貫通ドメインが存在し、そのままでは不溶性たったが、膜貫通ドメインを除去して発現させた場合は可溶性が良好で、精製も比較的容易に行えた。この精製 P30 を使用して結晶化のスクリーニングを実施したが、P30 の結晶は得られていない。P30 についてはモノクローナル抗体も複数作製したが、M. pneumoniae の細胞接着を阻害するモノクロ抗体は得られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで大量調製することが難しかった P1 タンパク質を、合成遺伝子を使って大腸菌で大量生産できるようにしたのは価値ある成果だった。しかし、大腸菌の発現系では P1 の分解産物の発生もかなり多く、初期の段階では組換え P1 タンパク質の高純度な精製は難しかった。これが研究計画に遅れが生じる原因になった。しかしその後、発現条件の最適化や精製条件の検討によって、分解産物の発生を抑えるとともに、かなり高純度な精製もできるようになってきた。精製条件の検討は現在も続けており、今後、精製 P1 は結晶化スクリーニングが行えるレベルまで純度よく大量調製ができるようになると考えている。また P1 の機能を知るためのタンパク化学的実験、生物物理学的な実験にも利用できるようになると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
組換え P1 タンパク質の精製がかなり高純度に行えるようになってきており、今後は結晶化スクリーニングにも使用できる純度の組換え P1 が大量に得られると考えている。これを用いて P1 結晶のスクリーニング実験を行い、結晶が得られれば構造解析へ進む。結晶が得られない場合は P1 の一部の配列を除去した組換えタンパク質を調製して、結晶化スクリーニング実験を行う。純度の高い P1 タンパク質が大量に得られるようになれば、P1 の性質をより詳しく理解するための実験にも利用できると考えられる。具体的には電子顕微鏡による P1 タンパク質の形態観察や、P1 が認識するシアル酸オリゴ糖などとの結合実験があげられる。これらの実験について支援班とも相談し、これまでに試されていない実験が行えないか検討する。 また、M. pneumoniae の接着器官を構成する他のタンパク質について、遺伝子組換えによる大量生産が可能かを順次検討し、構造解析や機能解析実験に利用できるようにする。現在は、P1 と複合体を形成する P90 タンパクについて発現系の検討を開始している。 一方で、 M. pneumoniae の遺伝子操作技術を改良し、遺伝学的な手法で細胞接着と滑走運動性のメカニズムを探る試みも行う。具体的には、M. pneumoniae ではまだ使われていない新しい蛍光タンパク質を利用して接着器官を可視化することや、滑走運動を観察すること、新たな変異導入法で作製した変異株の性状分析を行うことを計画している。
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