2013 Fiscal Year Annual Research Report
転写因子DNA探索のエネルギーランドスケープ理論:速度‐親和性パラドックス
Publicly Offered Research
Project Area | Integral understanding of the mechanism of transcription cycle through quantitative, high-resolution approaches |
Project/Area Number |
25118509
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高田 彰二 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60304086)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 転写因子 / エネルギーランドスケープ / シミュレーション |
Research Abstract |
A)原子レベルの分子動力学シミュレーション(原子レベルMD):LacリプレッサーのDNA結合ドメイン(モノマー)とdsDNAの複合系の分子動力学シミュレーションを行った。DNAとして、特異的DNA配列および非特異的DNA配列を用いてそれぞれ1マイクロ秒の計算を行った。特異的DNA配列上ではDNAとの結合はNMRで得られている構造からほとんど変化しなかったのに対して、非特異的DNA配列上では、結合は弱く、1マイクロ秒の間に、徐々に初期構造から揺らぎ始めた、揺らぎの中でLacリプレッサーが大きく傾くことがあることも観察された。 B)粗視化レベルの分子動力学シミュレーション(CGMD):Aの原子レベルMDに基づき粗視化モデルを構築し、DNA配列上の転写因子の結合状態をCGMDした。粗視化モデルとしては、我々が過去10年にわたり開発・改良してきた高精度粗視化モデルを基にした。転写因子(蛋白質)ではアミノ酸1個を1粒子で、DNAについてはヌクレオチド1個を3粒子で、各々表現した。まず、Lacリプレッサーについて、従来のCGMD法で計算し原子レベルのMDと比較したところ、結合面等に若干の差異がみられた。そこで、粗視化モデルにおいて、原子レベルの静電ポテンシャルを最大限再現するように粗視化粒子の電荷配置を最適化する方法RESPAC法を開発し、それをLacリプレッサーに適用したところ、原子レベルのMDとよい一致を得た。次にこの計算法で、16個の転写因子と非特異的DNAとの結合シミュレーションを行った。非特異的DNA配列との結合面は、特異的なDNA配列との複合体の結晶構造と類似しているものから、大きく異なる面で結合するものまでさまざまであることが分かった。非特異配列と特異配列で幾らか異なる結合モードを持つことにより、速度ー親和性パラドックスを回避している可能性がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
原子レベルMDでは、計画通り、Lacリプレッサーをモデルとして特異的DNA配列および非特異的DNA配列との結合モードを調べることができた。できればこの中間にあたる半特異的DNA配列の計算ができるとさらによかった。粗視化レベルMDでは、当初、従来の計算法では十分でないという結果となったが、方法を改良することにより、粗視化しつつも比較的高精度な計算法が確立できた。また、計画よりも早く、16個の転写因子の網羅的計算が実現できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
A)原子レベルの分子動力学シミュレーション(原子レベルMD): 原子レベルMDでは、Lacリプレッサーをモデルとして、特異と非特異の中間に位置する半特異配列を用いて分子動力学計算を進めることで、ゲノム上の探索過程で出会う半特異的な配列の存在が、転写因子の探索過程にどのような影響を及ぼすのか、解析する。 B)粗視化レベルの分子動力学シミュレーション(CGMD): この情報を粗視化レベルのMDに反映する。従来の粗視化MDでは、完全に特異的な配列の場合と完全に非特異的な配列の場合だけを取り扱うことが可能であるが、本研究によって、任意の配列に対して計算可能な方法の確立し、DNA探索のエネルギーランドスケープを描くことを目指す。 数理モデリング:さらに、この計算結果をもとに、ゲノムレベルでの数理モデリングによって、ゲノム上の探索過程のシミュレーションと探索時間の計算を実現する。
|