2013 Fiscal Year Annual Research Report
エピゲノム制御によるDNA損傷修復機構と細胞分化
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular mechanisms of cell fate determination in the cells that undergo stepwise differentiation to multiple pathways |
Project/Area Number |
25118701
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
落合 恭子 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10455785)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ゲノム / 遺伝子 |
Research Abstract |
細胞分化過程では、遺伝子発現と分化に重要な生理学的事象が同時に生ずる。しかしエピゲノム制御という概念が生まれ、細胞分化がエピゲノムによる緻密な制御を受けることが示された今、遺伝子発現と生理学的事象を連続する細胞分化反応として捉えることができるのではないかと考えた。本研究では、B細胞が形質細胞へと分化する過程で生ずる遺伝子組換え反応であるCSR(Class switch recombination)とそれに関与する遺伝子発現を例にとり、両者の連続性がいかにエピゲノムによって制御され細胞分化が誘導されるかを明らかにする。 現在までの研究から、CSR領域では抗体遺伝子改変酵素AIDの機能制御に伴い、特異的ヒストンメチル化が報告されている。例えば、AIDのCSR領域へのリクルートに機能するSpt5は、CSR領域のヒストンH3K4me3を特異的に認識し、ヒストンH3K36me2/3を認識するMsh2/Msh6 (MMR) complexは、AIDのCSR領域DNA切断を補助する。興味深いのは、これらのヒストンメチル化がどのように経時的制御され、DNA損傷修復が成し遂げられるかという点にある。種々のメチル化反応はメチル化基質SAMを必要とし、Mat(Methionine adenosyl-transferase)はSAM合成を担う酵素である。重要なことに、形質細胞分化過程ではMat2α発現が誘導されることを見いだした。さらに、形質細胞分化過程におけるMat2α複合体を精製したところ、Spt5およびMsh6をはじめとするCSR関連因子が含まれていた。これらの背景に基づき、Mat2αによるメチル化を主体としたCSR制御機構が存在すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MatファミリーにはMat2α以外にMat1が存在するが、B細胞におけるMatの発現はMat2αのみであることを確認した。そして、Mat2αが形質細胞分化および細胞分化イベントであるCSRに必要であるかを検討するため、同細胞におけるMat2αノックダウンを行なった。その結果、Mat2α遺伝子がノックダウンされた細胞では細胞分化頻度およびCSR頻度減少を認めた。このことから、Mat2αは形質細胞分化およびCSRに必須である可能性が示唆される。 そこで、CSRにおけるMat2α機能を解析するため、Mat2αおよびMat2α複合体に含まれるCSR関連因子について、経時的なCSR領域への結合をChIPアッセイにより検討した。その結果、CSR関連因子の時間依存的なCSR領域への結合が確認された。一方、Mat2αは早期の段階からCSR領域に結合していた。このことから、Mat2αは局所において持続的に結合し、CSRにおける経時的ヒストンメチル化を制御すると考えられる。さらに、同様に抗ヒストンメチル化抗体を用いた経時的ChIPアッセイを行い、既知のヒストンメチル化状態の変化とともに、新規のヒストンメチル化の関与を見いだした。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに得られた研究結果を踏まえ、Mat2αは形質細胞分化におけるCSRに必要とされる種々のヒストンメチル化を制御する可能性が高い。CSR制御に関与する新規ヒストンメチル化を明らかにするため、現在までは個々の抗ヒストンメチル化抗体を用いた経時的ChIPアッセイを行なっていた。同方法を用いて、一部の新規ヒストンメチル化を同定に成功したが、新たな問題点に直面した。それは、ChIPアッセイでは抗原認識の点から使用可能な抗体が限られている点であり、同方法を用いてさらなる多種メチル化を同定することは抗体の使用可否に左右されてしまい、本来存在するメチル化を見逃してしまう可能性が考えられた。 そこで、新規導入戦略としてDNAP(DNA affinity precipitation assay)法を用いた解析を先行して行なう。同方法は、プローブを用いて特異的遺伝子配列を沈降し、結合する蛋白質をウェスタンブロット法にて同定する解析方法である。ウェスタンブロット法は、ChIPアッセイと比較して使用可能な抗体が多く存在しかつ特異性もある。よって、同方法を用いてCSR領域の経時的ヒストンメチル化をより多種検出し、Mat2α複合体因子との関連性を明らかにすることで、エピゲノム制御によるCSR制御モデル構築を目標とする。
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