2013 Fiscal Year Annual Research Report
視線随伴パラダイムとその応用による階層的行為主体感の発達過程の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Constructive Developmental Science; Revealing the Principles of Development from Fetal Period and Systematic Understanding of Developmental Disorders |
Project/Area Number |
25119510
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
宮崎 美智子 大妻女子大学, 社会情報学部, 助教 (90526732)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 行為主体感 / 視線随伴パラダイム / 発達 / 自閉症スペクトラム / 乳幼児 |
Research Abstract |
自閉症スペクトラム者は自分の行為の意図性に対する気づき(行為主体感)に困難を示すことが知られているため、その発達過程にも非定型性が示される可能性が高い.我々は乳幼児向けに開発した行為主体感の定量的評価課題(イメージ・スクラッチ課題)を用い、まず行為主体感の定型発達過程を明らかにすることを試みた.具体的には、8~9カ月のデータに加え、定型発達の4~5カ月、18~20カ月児を対象としてイメージ・スクラッチ課題を実施し、成人の行為主体感の有無に伴う視線パターンとの比較を実施した. これまでの我々の検討から,イメージ・スクラッチ課題において行為主体感を反映すると考えられるのは,1.視線-画面変化の随伴性違反に対する探索的眼球運動(Exploration Rate:ER),2.削り出す絵の面積量を増加させるための視線調整,である.1.については,8カ月群のみが成人と同様の傾向を示した.自らの視線が逐次的に注視点として表示されるWGP(with gaze point; WGP)条件では,行為主体感を抱けていると推定される乳児(ER ≧ 0.187)の割合が高く,自らの視線が逐次表示されないNGP(no-gaze point; NGP)条件の結果と対照的であった.一方,4カ月群では,8カ月群や成人では随伴性検出が困難になるNGP条件において随伴性違反に対する高い敏感性が示された.このことは,自分の眼球運動に関する視覚的フィードバックが逐次的に呈示されずとも,4カ月児は視線-画面変化の随伴性検出に優れている可能性がある.また,18カ月群では,視線―画面変化の随伴性違反に対する敏感性は4カ月群に比較して有意に低く,注視点の有無による条件間差も見られなかった.18カ月群では,知覚器としての目,すなわち「見る」機能への特化が影響している可能性がある. 2.の削り出した絵の面積量に関しては,成人群・8カ月群の主体感/推定主体感あり群のみ,課題前半から後半にかけての面積量の増加が認められた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は,定型発達における自己主体感の発達過程の精査を実施した.具体的には,我々が開発した視線随伴課題が幅広い月齢の乳幼児の行為主体感の発達過程を検討可能であるか,課題の有効性を検証するとともに,行為主体感に関連する生理指標の探索を実施した. まず,我々が開発した視線随伴課題(イメージ・スクラッチ課題)の有効性について,4カ月児・8カ月児・18カ月児・成人という異なる発達段階の被験者に同じ課題を実施した.その結果,イメージ・スクラッチ課題が,運動発達の差異にとらわれることなく,幅広い月齢の乳幼児に適用可能な課題であることが示され,それぞれの発達段階における行為主体感の様相(多感覚情報処理の特徴)が明らかになってきた. また,行為主体感に関連する生理指標として,瞳孔反応に着目した検討を行った.瞳孔反応は注意や驚きといった心理状態を反映する指標として有力である。近年では自らが主導権をもって成立した共同注視において有意に瞳孔が散大することも分かってきており(Schilbach et al., 09)、自己認識や自己効力感との関連性からも瞳孔反応は見逃せない.今回の検討では,①随伴性違反に対する敏感性についても瞳孔反応が指標として有効であるか、②主体感の有無が課題中の注意や知的労力に変化を及ぼし、それが瞳孔散大率に寄与するかどうかを検討した。主体感の有無による瞳孔散大率の比較を行ったところ、第一試行においてのみ群間差が確認された.これは瞳孔が随伴性の気づきやすさに対してある主の準備状態を表していることを示唆する.ただし、瞳孔径は心理状態だけでなく、輝度変化にも影響を受けやすいため、より多くの面積が早く明るくなる主体感あり群では輝度変化による瞳孔収縮の影響を合わせて受けている可能性も残されている.今後は輝度変化の視覚的特性量を制御した検討を行う必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は,次の2つの研究項目を中心に進めていく.まず,第一の研究項目は行為主体感の定型・非定型の発達過程の精査である.我々が明らかにしてきた多感覚情報処理についての定型発達のダイナミクスが自閉症者においても見られるのか、非定型性がみられるのかを明らかにしていく.行為主体感は,多くの研究者が大きな関心を払いながらも,これまで実験的検証が困難であった自他理解の中核となるトピックである.我々が開発した新たな手法によって行為主体感の定型/非定型の発達過程を実験的・定量的に評価し,領域間でその知見を融合させることができれば,「情報のまとめあげ困難説」の精緻化に貢献できるのみならず,新たな自他理解の発達モデルの構築,高リスク児の早期発見につながる行動指標の同定,などの研究の展開が期待される. 第二の研究項目は,行為主体感の指標となる生理指標の発見である.現在,眼球運動のパターンの違いにより行為主体感の有無を推定しており,それは一定の成功を収めているもののまだ完全ではない.多感覚にわたる情報の中から随伴性や同調性といった関係性を抽出したり,あるいは不完全な同調性を許容して統合的に扱ったりするためには,さまざまな感覚情報間の関係性を概念的に表象することが不可欠であるが,このような概念的表象は主観的であるために,特に乳幼児では測定が困難である.単一の指標のみで評価するのではなく,多角的・定量的に行為主体感を評価するため,眼球運動のパターン以外にも自分の行為に対する気づきを評価できる生理指標の発見を目指す.
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