2013 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫の聴覚器規範設計の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Innovative Materials Engineering Based on Biological Diversity |
Project/Area Number |
25120502
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
西野 浩史 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (80332477)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 生物・生体工学 / 生物模倣 / 昆虫 / 聴覚 / 鼓膜 / クチクラ / 弦音器官 / 気管 |
Research Abstract |
昆虫は外骨格という構造的な制約の中で我々の耳とはその材料や形状の大きく異なる「もうひとつの耳」を進化させてきた。これまで昆虫の鼓膜の挙動を模倣した補聴器の例はあるが、聴覚器本体に着目したミメティクスは国内外に例をみない。これは昆虫の聴覚器の詳細な構造や力学的特性についての知見が大きく欠落していることによる。コオロギの聴覚器(鼓膜器官)は音圧の周波数分波器としては世界最小クラス(200μm)であるが、広い可聴域、高感度を持つ。私はコオロギの鼓膜器官をモデルとして、そのサブセルラー領域を含む細胞構造、三次元的構造、および力学的性質を精査することで、ヒトの内耳モデルに比肩しうる“鼓膜器官モデル”を作成し、将来の聴覚ミメティクスやロボティクスにつながる基礎的知見を得ることを目的とする。 研究初年度は予定通り、共焦点レーザー顕微鏡を用いた伝音経路の精査に注力した。まず、聴覚器の周囲を覆うクチクラの上皮を半透明の真皮から分離する解剖手法を用ることで、非侵襲的に内部構造を観察することに成功した。大量に取得した光学切片をもとに聴覚器を含む脛節のまるごと三次元立体構築を行い、さらに聴覚器本体を構成する全細胞の三次元立体構築にも成功した。さらに、サブセルラー領域の観察により、70個の感覚細胞の刺激受容部位(樹状突起)がテント状の支持細胞の集合体(マス)を下から支える構造になっていること、樹状突起周囲が通常の体液ではなく、脂質に富む特殊なリンパ液によって満たされていることも発見した。 以上、研究は当初の計画通りに進んでおり、次年度の力学的計測、モデル化に向けた具体的な指針をたてることができた。当初予定していた振動受容器(膝下器官)の精査がやや滞っていることを考慮し、達成率は90%と総括したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、1.聴覚器を含む脛節まるごと三次元立体構築、2.振動受容器、音受容器を構成する全支持細胞と全感覚細胞の三次元立体構築、3.感覚細胞と支持細胞のサブセルラー領域精査、の3点を挙げた。1,3については100%達成できた。一方、2については音受容器(鼓膜器官)の全支持細胞の三次元立体構築には成功しているが、隣接する振動受容器(膝下器官)については支持細胞間の境界の判別が極めて困難であるため、立体構築にまでは至っていない。今後、対比染色の改良を行うことで対処したいと考えている。ただし、研究の焦点はあくまで聴覚器に当てていることを考慮すると、その達成率は90%程度と自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、北大・情報科学研究科の岡嶋孝治教授とともに伝音経路(鼓膜、気管、聴覚器本体)の原子間力顕微鏡(AFM)を用いた粘弾性計測を行う予定である。ただし、計測用のセットアップの改良に時間を有すること、聴覚器本体の粘弾性計測は液浸で行う必要があるため、総合的な難易度は極めて高い。モデル化はこの粘弾性計測の成功を前提とするため、大きなリスクが生じる。 そこで、もう少し視野を広げ、イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)を用いた音伝達体の表面構造の精査を含めたい。また、初年度のサブセルラー構造観察から、感覚細胞が体液とは異なる特殊なリンパ液で満たされていることから、このリンパ液の化学組成についての研究も同時並行で進めていくこととする。これらの研究は異分野連携、すなわち班間連携に直結するものであり、大きな成果を期待できる。
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