2013 Fiscal Year Annual Research Report
異種間キメラ動物を利用してミクロからマクロに至る秩序形成の仕組みを探る
Publicly Offered Research
Project Area | From molecules, cells to organs : trans-hierarchical logic for higher-order pattern and structures |
Project/Area Number |
25127709
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡部 勝 大阪大学, 微生物病研究所, 特任研究員(常勤) (30089875)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 異種キメラ / 臓器の形 / 臓器の大きさ / 秩序形成 |
Research Abstract |
現在のところ、マウスとラットの異種キメラの作製を報告しているのは、我々と同時期に成功した他の一研究室のみである。このような独創的な系を用いることにより、古くから疑問に思われてきながら、これまでほとんど手付かずの状態で解明がなされていない、動物はどのようにして固有のボディサイズを決定しているのかという問題に切り込める可能性が出てきた。即ち、マウスとラットは成熟すると体重が10倍くらい異なる。我々は異種キメラの作製が出来ないのは胎盤に異種の動物の細胞が存在することが問題ではないかと考えて、胎盤に分化することがないES細胞に着目し、マウスの受精卵にラットのES細胞を注入することによりマウス・ラットキメラを作製することに成功した。その結果、マウス・ラットキメラのサイズはマウスとラットの中間サイズのになるのではなく、キメラ作製に使用する卵子がマウスであればラットの細胞が体中に分布していても、その大きさはマウスと同じになり、逆にラットの卵子を使用してマウスのES細胞を注入してキメラを作製した時には、マウスの細胞が体中に分布していても、ラットの大きさの個体ができ、ラットの体型になることを見出した。このように異種キメラを作製することによりマウスとラットの細胞が共存や相互作用をする場合に統一されたボディープランの元に発生、成長することを利用してボディープランを指令する時期、あるいは場所が存在するのではないかということを示唆しつつある。出生時から成熟期まで秩序ある体のバランスを取りながら成長し臓器や体を形成する仕組みは、生物の発生という観点から極めて重要な問いであり、我々はこの問に正面から挑戦している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
キメラ動物中における異なる種の細胞が細胞レベルにおいて種としてのアイデンティティーを保っているかどうかについてまず検討した。そのためにマウスとラットでは精子の形や大きさが異なるので、その特異的な形を有する精子に着目して観察を行った。マウスあるいはラットのいずれかあるいは両方を異なる蛍光タンパク質を発現するようにしてキメラの識別を容易にするような工夫をしてキメラを作製した。異種キメラの精巣中には蛍光タンパク質の発現からマウス由来及びラット由来の両者の精原細胞が共に存在し、しかも共に精子形成を行っていることが認められた。この時、これらの精子は元来の種の形を保ち、マウス型及びラット型の精子がひとつの精巣内にセグメントを作って共存していることが確認された。次いで、このように共存する精子に受精能があるか否かを検討するために細胞質内精子注入法(ICSI法)を用いてそれらの受精能力を検討した。キメラ動物に存在するラット型の精子はマウス型に比べて少ないが、これらはラットの卵子を正常に受精させることが出来ることが確認された。 即ち形の上でも機能的にもキメラ動物中の精子は種としての特異性を維持していることが明らかになった。キメラ動物中における種のアイデンティティーは維持されていることを示す一例である。一方、筋肉は筋原細胞が融合して成熟型の多核筋細胞を形成するが、マウス・ラットキメラの場合、マウスとラットの筋原細胞が融合している部分があることが観察された。この場合には種の独自性を超えて細胞融合し、共存することが示された。このように異種融合細胞が個体内で生存、機能していることが示されたのは世界でもはじめてのことであり、種の特異性を考える上で大きな進展につながると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
マウス・ラット異種キメラにおける体型の決定(体や臓器のサイズ)が発生の何処かの時点でマウス型あるいはラット型に決定され、細胞のオリジンがマウスであれラットであれ、この決定がラットであればラットのマウスであればマウスのボディープランに従って細胞は行動する。これがどのような機構で制御されているのかについては現在のところ手がかりは一つだけである。即ち、ボディープランは必ず受精卵側に決定されるということである。ES細胞は卵子に注入された後のいずれかの時期に「卵子」の一部の細胞としてのリプログラミングを受ける必要があるが、その際に卵子から種としてのボディープランに関する指令を受けると考えると説明がつく。この仮説に従って研究を進めたい。 マウスの2細胞期の卵子を電気的に融合させて4倍体の核を持つ細胞を作ると4倍体となったマウスの卵細胞は胚胎にはほとんど分布できないが胚胎外の胎盤には分化できる。このような卵子にラットのES細胞を移植すると胚胎部分はほぼラットのES細胞だけでできあがることになる。この時の発生の様子をラットそのものの場合やマウス・ラットキメラにした場合と詳細に比較検討を行うことにより、ボディープランの制御を指令している部分が胚体外に存在するか否かを検証してゆきたい。 ES細胞が分化できない胚胎外細胞部分から指令が出ているという可能性については別のアプローチも行う予定である。即ちマウスとラットの胚の発生はマウスが24時間から48時間ほど早めに発生が進むという違いがあるので、そのことを利用して発生のごく初期における細胞の増殖と分化を様々な転写因子の発現をモニターすることによりその細胞がマウス型としての発生プランに添っているのかラット型なのかを明らかにしてゆく予定である。
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Research Products
(5 results)