2013 Fiscal Year Annual Research Report
棘皮動物幼生骨片と脊椎動物咽頭弓をモデルとした新奇形態進化の研究
Publicly Offered Research
Project Area | Genetic bases for the evolution of complex adaptive traits |
Project/Area Number |
25128701
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
和田 洋 筑波大学, 生命環境系, 教授 (60303806)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | メダカ / Pax1 / 咽頭弓 / ヤツメウナギ / 顎 / 進化 |
Research Abstract |
メダカにおける解析から、咽頭内胚葉の分節リズムに、中胚葉細胞の繰り返し構造が一次的な情報を与えているということをこれまでに明らかにしてきた。この結果を基に、神経管と内胚葉性咽頭嚢の協調的な分節が成立について考えると、以下のように推論できる。神経管の分節は、体節中胚葉の分節性に依存して形成されることが知られていることから、咽頭中胚葉の分節と体節中胚葉の分節に関連性があるかどうかが鍵となる。実は、ナメクジウオでは咽頭中胚葉は、一度体節として分節化したものが腹側へと伸長してくるため、必然的に体節と咽頭中胚葉の分節はリズムが一致する。そこで、ヤツメウナギでの咽頭レベルでの体節形成と咽頭中胚葉の分離を調べ、最前方の体節が第3咽頭弓に対応していることを明らかにした。ヤツメウナギでも第1第2咽頭弓に特有の形成機構があることを示唆するが、その解析プロセスの中で、これまで一つの分節単位と考えられてきたヤツメウナギ第1咽頭弓に、前後に分かれる2つの分節が見られる可能性を示す結果を得た。この2つの分節性は、三叉神経の第2枝、第3枝にそれぞれ対応しており、脊椎動物の顎の進化に関して、新たな示唆を与える。 ウニの幼生骨片の進化にAlx1とVEGFシグナリングが幼生期に活性化されるというステップが必要であることを明らかにした。そこで、ヒトデにAlx1を強制発現させたとき、発現に変動する遺伝子があるかNGSを用いて解析した。すると10程度の遺伝子が有意に発現を変化させていた。その中にはウニで幼生骨片の形成に必要なエフェクター遺伝子なども含まれていた。この結果は、表現型に大きな影響が出ず、中立に近い状態で転写因子の発現に変化が見られる状態を経ることが、複合適応形質の進化に貢献している可能性を示唆する。このことは逆に、野外集団にも発生に関わる転写因子の発現に中立的的な多様性が見られることも示唆する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
咽頭弓形成に関する研究では、当初計画していた複合適応形質の進化に関して、体全体にわたってのシグナルを複数の組織が読み取ることで、協調的な進化を成し遂げうるという仮説が、立証されてきた。さらには、その研究から派生して、ヤツメウナギの咽頭弓形成の解析から、顎の進化に関する新しい知見も得られてきた。この成果は、インパクトの高い成果として公表すべく、既に論文を投稿した。 棘皮動物の研究についても、比較トランスクリプトーム解析から興味深い成果が得られてきており、この成果はまもなく論文を投稿する予定である。さらに、このような成果から、遺伝子ネットワークの解析や、自然集団における発生プロセスの可塑性などの新しい問題へと発展しており、その研究に関しても、トランスクリプトーム解析を取り入れることで、さらに発展させていくことができそうである。 領域内における共同研究や技術供与の恩恵を受けることができたことが、期待以上の進展につながった面も大きい。特に、大学院生も含めた教育や情報交換の場が設定されたことで、スムーズに新しい技術を取り入れることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
棘皮動物幼生進化に関する研究では、未だヒトデ幼生に異所的な骨片を形成させるに至っていない。現在進めている比較トランスクリプトーム解析から新たな候補因子を探し、再現を目指す。また、新しい候補遺伝子としてTwistも挙がってきており、この遺伝子も含めて、骨片進化に関する十分条件の探索を目指す。また、in silicoでの遺伝子ネットワークの操作から、新規な細胞タイプ創出の機構に関する研究も進める。これらの成果を統合していくことで、蓄積していくゲノム情報から、インフォマティクス技術を用いて、ウェットな生物学、進化学に関する知へと転換していくモデルとなるような研究成果を挙げていきたい。 咽頭弓の進化に関しては、咽頭弓分節の機構を手がかりに、ギボシムシまでさかのぼった後口動物のおける分節性進化の歴史の俯瞰から、神経管と内胚葉性咽頭嚢の協調的な分節確立を理解できるところまできた。今後、鍵となるのは、脊椎動物において、咽頭中胚葉と体節中胚葉がどのようにして、分節のリズムを保ちながら、分離していったかが鍵となる。ヤツメウナギでの咽頭レベルでの体節形成と咽頭中胚葉の分離を調べており、最前方の体節が第3咽頭弓に対応しているところまで明らかにした。最前方の体節形成のプロセスの中で、咽頭中胚葉とどのように関連しているかについて、遺伝子発現も含めて、注意深く解析する中で、明らかにしていきたい。
|