2013 Fiscal Year Annual Research Report
哺乳類生殖巣の雌性維持機構の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular mechanisms for establishment of sex differences. |
Project/Area Number |
25132704
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
杉浦 幸二 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (20595623)
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Project Period (FY) |
2013-06-28 – 2015-03-31
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Keywords | 卵母細胞 / FOXL2 / エストロゲン |
Research Abstract |
哺乳類の生殖巣において体細胞の「性」は可変的である。卵巣においては、転写因子Foxl2とエストロゲン受容体が働いて卵巣体細胞(顆粒膜細胞)の雌性を維持している。また、顆粒膜細胞の発達・機能制御には卵母細胞の分泌する増殖因子群(卵由来シグナル)とエストロゲン受容体シグナルが関りあって重要な役割を果たす。本研究では、この卵由来シグナルとエストロゲン受容体シグナルが関り合うメカニズム、さらに卵由来シグナルによるFoxl2発現制御の可能性に着目し、卵巣顆粒膜細胞の雌性維持機構の解明を目指す。さらに、卵・エストロゲン両シグナルの制御による卵巣から精巣への分化転換の可能性についても検討する。平成25年度は、まず、卵由来シグナルによる顆粒膜細胞でのFoxl2の詳細な発現動態およびその制御について解析した。その結果、顆粒膜細胞は、良く発達した卵胞内では、卵母細胞の近傍に存在する卵丘細胞と、卵胞壁を裏打ちする壁顆粒膜細胞とに区別されるが、Foxl2発現は壁顆粒膜細胞において高く、一方、卵丘細胞においては低く維持されていた。さらに、卵丘細胞におけるFoxl2発現は卵由来シグナルによって抑制されることが明らかとなった。すなわち、生体内で卵丘細胞でのFoxl2発現が低い原因のひとつとして卵由来シグナルによる抑制があると考えられる。興味深いことに、この時、卵丘細胞におけるFoxl2発現は低いにも関わらずFoxl2欠損卵巣にみられるようなSox9の発現上昇は見られなかった。これは、卵丘細胞においてはFoxl2を介さないSox9発現制御メカニズム、すなわち雌性維持メカニズムが存在していること示唆している。また、マイクロアレイ解析を行い、卵由来シグナルとエストロゲン受容体シグナルのクロストーク機構について示唆を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、(1)FOXL2の発現およびその制御解析、(2)卵シグナル欠損マウスでの精巣化度合の解析を予定していた。(1)について、顆粒膜細胞の発達過程におけるFoxl2発現解析については概ね予定通りに達成することができた。また、発現制御についても概ね達成することができた。また当初は、顆粒膜細胞におけるFOXL2発現は卵由来シグナルによって促進されるものと考えていたが、予想に反して卵丘細胞(特に卵母細胞の近傍に存在する顆粒膜細胞)では、卵母細胞による抑制を受けることが明らかとなった。したがって、卵丘細胞ではFoxl2発現が低くいにもかかわらず、雌性が維持されていることになる。このメカニズムについては来年度以降に解析して行く予定である。 (2)については、追加採択のため研究開始が遅れたことと、当該研究機関保有の動物室空調機の故障事故があり遺伝子改変動物の飼育数が十分に確保できず十分な解析には至らなかった。現在は、動物室の空調修理も終わり飼育数を増やしている。 本年度当初の予定にはなかったが、上記以外にも、卵丘細胞での遺伝子発現に対する、エストロゲンと卵由来シグナルの影響について、マイクロアレイ解析を行い両シグナルによる卵丘細胞の発達・機能制御メカニズムに関して示唆を得ることができた。 これらのことを総合して、おおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、まず、(3)培養下で顆粒膜細胞の分化転換実験系の確立を目指す。顆粒膜細胞としては、生体内でのFoxl2欠損によりセルトリ化すると考えられる壁顆粒膜細胞を用いる。また前述したように、卵丘細胞では、従来考えられていたFoxl2を介した雌性維持メカニズムとは異なるメカニズムの存在が示唆され、これは非常に興味深い点である。そこで、壁顆粒膜細胞と同様の条件で培養した際の卵丘細胞のセルトリ化度合(セルトリ細胞マーカーの発現など)についても解析する。 次に、(4)マウス個体レベルでの卵巣・精巣分化転換の可能性について解析する。これには、当初予定通りの卵シグナル減弱モデルマウスに抗エストロゲン薬長期的に投与し、生殖巣における遺伝子発現レベルでの精巣化を解析する。また、エストロゲン受容体欠損マウスでは、加齢に伴った卵巣の一部精巣化が報告されていることから、加齢した卵巣環境では雌性が維持されにくいと考えられる。当該研究室において加齢モデルマウス実験系が整ったことから、マウス個体の加齢が卵巣の雌性に与える影響についても遺伝子発現レベルの解析を行う予定である。
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Research Products
(1 results)