2014 Fiscal Year Annual Research Report
新興国におけるインフォーマル制度の実験・行動経済学的分析
Publicly Offered Research
Project Area | Studying Interactions between Politics and Economic Development in Emerging Countries |
Project/Area Number |
26101502
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
澤田 康幸 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (40322078)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 制度 / コミュニティ / 社会ネットワーク / 社会関係資本 / 社会的選好 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、途上国農村におけるインフォーマルな労働取引制度を対象に、農家の経済行動と村落コミュニティ内部の社会ネットワークとの間にある相互規定性を明らかにすることである。こうした研究は、市場メカニズムの不備を補完するインフォーマル制度の成立要因を探るという点で、開発ミクロ経済学の根幹を支える重要な課題である。 平成26年度は、以下の3つの課題に取り組んだ。 第一には、フィリピン農村における田植え労働慣行に注目し、「理論上は個人出来高制をとることで労働者の生産性を高められるはずなのに、なぜ全員一律の固定給になっているのか?」という問いについて研究を実施した。その結果、固定給の下では労働者の社会的選好の存在が機会主義的行動を抑制していることを発見した。こうした発見を取りまとめ、フィリピン農村の田植え労働契約を対象に経済的インセンティブと社会的規範および社会的選好の相互関係に関する論文を執筆した。 第二に、2013年11月にフィリピン中部を横断し、甚大な悪影響を生み出した台風Yolandaを対象として、自然災害が家計の経済・社会行動に与える影響を明らかにするための予備調査を実施した。また、東日本大震災の後に大船渡に設立された、社会関係資本(ソーシャルキャピタル)蓄積のための施設である「居場所ハウス」をYolanda被災者への適用可能性について検討した。 第三には、第三に、スリランカ南部農村地域において灌漑の維持管理等に関する制度についての調査及び実験の可能性を探るための予備調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、第一に、村におけるインフォーマルな労働取引制度を対象に、農家の経済行動と村落コミュニティ内部の社会ネットワークとの間にある相互規定性を明らかにし、フィリピン農村の田植え労働契約を対象に経済的インセンティブと社会的規範および社会的選好の相互関係に関する分析をすすめ、“Incentives and Social Preferences: Experimental Evidence from a Seemingly Inefficient Traditional Labor Contract” CIRJE Discussion Paper F-961のディスカッションペーパーとして取りまとめた。 本論文では、フィリピン農村における田植え労働慣行に注目し、「理論上は個人出来高制をとることで労働者の生産性を高められるはずなのに、なぜ全員一律の固定給になっているのか?」という問いについて研究を実施した。その結果、固定給の下では労働者の社会的選好の存在が機会主義的行動を抑制していることを発見している。
また、「制度がどのように選ばれて持続していくのか?」や「機会主義的行動を抑制しているのは社会的選好か、それとも繰り返しゲームの効果なのか?」といった問いには答えるため、「制度の内生的選択ゲーム」といった最新の実験経済学の研究テーマを発展途上国農村における現実の経済問題と結びつけた先端的な研究の準備を行った。より具体的には、フィリピン・中部ルソンの田植え労働契約における内生的な制度選択に関する実験経済学的研究の準備を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
農家の経済行動と村落コミュニティ内部の社会ネットワークとの間にある相互規定性をより明確にし、 「制度がどのように選ばれて持続していくのか?」や 「機会主義的行動を抑制しているのは社会的選好か、それとも繰り返しゲームの効果なのか?」 といった問いには答えるため、平成27年度は、内生的な制度選択メカニズムを解明するためのフィールド実験、つまり田植え労働契約における内生的な制度選択に関する実験経済学的研究を行う予定である。 具体的には、フィリピン・中部ルソンで現存の田植え労働契約が社会的に最適であることを実証するための経済実験の設計と実施を行う。調査デザインについて慎重に議論している段階にあり、平成27年度に本調査を行う予定である。収集されたフィールド実験のデータ分析を実施し、国際会議や学会での報告を通じて論文を改訂し、最終的には国際雑誌に投稿する予定である。 こうした研究は、最新の実験経済学の研究テーマを発展途上国農村における現実の経済問題と結びつけた先端的な研究である。
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