2014 Fiscal Year Annual Research Report
生理活性分子の特徴抽出と合理的分子設計のための理論化学的研究
Publicly Offered Research
Project Area | Chemical Biology using bioactive natural products as specific ligands: identification of molecular targets and regulation of bioactivity |
Project/Area Number |
26102733
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
相田 美砂子 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90175159)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 生理活性 / 非経験的分子軌道法 / 水和 / モンテカルロ法 / 分子動力学法 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子化学の手法および計算機能力の向上により、孤立状態の分子の安定構造やそのエネルギー、また振動モードや振動エネルギーを正確に理論的に求めることは可能となってきている。しかし、天然物リガンドは、多くの場合、さまざまなコンフォメーションをとりうる構造をしているため、温度により、さらに、環境、とくに溶媒分子の影響により、コンフォメーション間の相対的な安定性が異なり、それにより、とりうる構造が変わりうる。そのため、孤立状態の構造がわかったとしても、リガンドと受容体の特異的認識を予測することが可能とは、必ずしも、ならない。さまざまな環境要因を考慮にいれることが、天然物リガンドと受容体との結合様式やその強さを予測するために必須となる。そこで、リガンドと受容体の特異的認識に関して実験的研究を推進しているグループと連携し、実際の生体系で起こっている特異的認識の具体例についての情報を得ることにより、特異的認識の理論的な解明に取り組む。そうすることにより、リガンドと受容体の特異的認識の予測の手法を確立していく。 今年度は(1)ケムバイオケム領域およびその関連の実験研究者と共同で、及び、(2)特徴的な生理活性分子に関して独自に、理論化学計算を進めた。ケムバイオケム領域およびその関連の実験研究者から得た天然物リガンドについての構造情報としては、リガンドと受容体の結合状態におけるX線による構造データがある場合とNMRデータがある場合の2種類の場合があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ケムバイオケム領域およびその関連の実験研究者と共同研究を開始し、天然物リガンドについての情報を得ることにより、実際の系の計算を進めているので、当初研究目的は達成している。共同研究のうちの一つに関しては、すでに共著の論文となり、成果を公表している。 ケムバイオケム領域およびその関連の実験研究者から得た天然物リガンドについての構造情報には、次の2種類の場合があった。 ①リガンドと受容体の結合状態におけるデータがある場合:類似化合物のX線による構造データが存在していたので、それを用いて、計算の初期座標を作成し、量子化学計算を開始した。多くの類似化合物による実験結果の違いを説明できるような、相互作用形式についての計算結果が出ている。 ②リガンドと受容体の結合状態におけるNMRによる情報がある場合:得られているNMRデータと矛盾のないような初期座標を作成し、量子化学計算を開始した。多くのコンフォメーションをとりえる分子であるが、いくつかの異なる置換基を導入した場合の実験結果を説明するような計算結果が出ている。 特徴的な生理活性分子として、グルコースのアノマー(α体とβ体)をとりあげ、水溶液中におけるアノマーのNMR化学シフトを予測するために必要な計算手法について検討を進めた。グルコースは多くのOH基をもつため、分子内水素結合を形成しうるが、溶媒分子とも容易に相互作用しうる。水溶液中における化学シフトは、構造のゆらぎを考慮にいれて計算する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
ケムバイオケム領域およびその関連の実験研究者との共同研究をさらに進め、新規データを収集し、量子化学計算を進める。ケムバイオケム領域には、さまざまな分野の研究者が属し、また、さまざまな種類の天然物リガンドを取り扱っている研究者が属しているので、専門としている実験の種類も多様である。実験的に信頼できる情報を集積しているグループと連携することにより、生体系における特異的認識の理論的な予測の手法の確立に取り組む。X線結晶構造解析やNMRによる構造データがある場合は、計算を開始するための初期構造を得やすいが、実験からは構造の特定が困難な場合もある。それぞれの実験に応じて、量子化学計算の進め方も変えることにより、多様な実験研究に対応する。実験と理論の相互作用を進めることによりケムバイオケム領域の研究のさらなる進展に貢献する。 天然物リガンドの構造や、天然物リガンドと受容体の特異的認識に関して実験だけからは明確な解釈が得られていない系も多く存在する。そのような場合には、実験の条件等をよく把握することにより、関与している分子種を絞っていき、実験で得られている現象を説明できるような分子種およびその構造を特定できるような量子化学計算を進める。とくに、環境により天然物リガンドの構造が大きく変化することも考慮に入れた、信頼性のある量子化学計算を実行する。明らかにすることができた天然物リガンドの構造の特徴等をまとめ、天然物リガンドと受容体との結合体形成を予測するために必要な特徴の抽出を試みる。
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