2014 Fiscal Year Annual Research Report
胃癌細胞の非平衡形状ゆらぎのもたらす時空間秩序と転移の相関
Publicly Offered Research
Project Area | Synergy of Fluctuation and Structure:Foundation of Universal Laws in Nonequilibrium Systems |
Project/Area Number |
26103521
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 求 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 教授 (00706814)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 細胞の形状ゆらぎ / 時空間パターン / 生命現象の物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は接着分子を担持した細胞膜モデルを構築し、技術的に困難であるヒト胃腺癌細胞株(3種)の継代培養の最適化を行った。並行して細胞接着力計測・解析装置を本研究の用途のために改善し、細胞の形状ゆらぎと遊走運動の解析をヒト赤血球(成人・新生児)を用いて行った。 本研究で用いる、ヒスチジンでタグ付けされた接着分子カドヘリンの再構成タンパク質を、ガラス基板上に作製したSupported Membraneに結合させ、その均一性を蛍光顕微鏡やX線鏡面反射で確認し、マスターコピー細胞を用いて選択的な接着を確認した。ヒト胃腺癌細胞株(3種)は理研細胞バンクから購入し、これまでに数種類の異なる培地や培養条件を試した。当初計画していたよりも細胞を安定に継代培養する条件の絞込みに時間がかかったため、以下の項で詳述するように物理学的なリードアウトの確立は現在進行中のほかの細胞系を用いて行うこととなった。 先述の胃腺癌系の細胞株の確立と技術面の最適化と並行して、細胞の形状ゆらぎの解析を行った。ハイデルベルク大学・大学病院新生児科のJ. Poeschl教授との協力のもと、ゆらぎの平均2乗振幅のフーリエ変換から新生児の赤血球の力学特性を初めて定量計測し、これを成人の赤血球の値と比較した。従来の人工膜の力学モデルと異なり、細胞骨格と膜のカップリング強度を入れて解析を行うことにより、これまで細胞の「変形率(アスペクト比)」などの現象論的記述にとどまっていた、血球細胞のシェア弾性の定量に成功した。微小流路(Diffusion Chamber)との組み合わせにより、赤血球の形状ゆらぎを毒素ストレスの前後で定量比較することに成功しただけでなく、臨床試験中の抗敗血症薬剤の機能の評価にも成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたよりもがん細胞を安定に継代培養する条件の絞込みに時間がかかったため、物理学的なリードアウトの確立は現在進行中のほかの細胞系を用いて行うこととなった。一方で揺らぎ解析については、ハイデルベルク大学・大学病院新生児科のJ. Poeschl教授とのヒト赤血球(成人・新生児)を用いた敗血症モデルの研究を行った。細胞骨格と膜のカップリング強度を入れた解析を導入し、血球細胞のシェア弾性の定量評価に成功し、論文の形でまとめることが出来た(Ito, ...., Poeschl, Tanaka, J. Phys. Chem. B, accepted with minor revisions)。
|
Strategy for Future Research Activity |
細胞性粘菌などと異なり、葉状仮足を広げた細胞、なかでもがん細胞の形状ダイナミクスを追跡することは難しい。当研究室で開発した、表面近傍の高さプロファイルに高感度で非侵襲的な反射干渉顕微鏡を用いて解析する手法 (Kaindl,.. Tanaka, PLoSONE (2012), Burk,.. Tanaka, Ho, Sci. Rep. (2015)) を駆使して、細胞の形状ダイナミクスの時空間秩序を精密に解析する。昨年度に確立した、接着分子(カドヘリン)の表面密度を精密に制御したSupported Membraneを用いて、胃腺がんの平常ゆらぎのモード解析と運動の解析を行い、がんの進行に特徴的なパターンを抽出することを目指す。 また、胃腺がんの転移に特有の化学誘導物質(ケモカイン)として、本研究では後腹膜、胃大網から放出され胃がん細胞の走化性、転移・生存・がん性を促進するとされる、CXCL12に焦点を当てる。申請者のグループでは、これまで溶解性のCXCL12が造血幹細胞のエネルギー散逸に与える影響を形状ゆらぎのパワースペクトル解析から明らかにした(Burk,.. Tanaka, Ho, Sci. Rep. (2015))ので、ここでは溶液中のCXCL12濃度が、進行度(転移度)の異なる癌細胞の接着と形状揺らぎ、そして遊走の時空間パターンに与える影響を、定量解析する。
|
Research Products
(13 results)