2014 Fiscal Year Annual Research Report
直接数値計算を用いたモデル微生物の動的性質に関する理学的研究
Publicly Offered Research
Project Area | Synergy of Fluctuation and Structure:Foundation of Universal Laws in Nonequilibrium Systems |
Project/Area Number |
26103522
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山本 量一 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10263401)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | モデル微生物 / シミュレーション / 流体力学 / アクティブマター / ソフトマター |
Outline of Annual Research Achievements |
水中を泳動する微生物は、紐状の鞭毛や表面に生えた繊毛によって水中を自己推進するが、これは船や飛行機などの人工物はもちろん、魚類や昆虫などとも全く異なるメカニズムに基づいている。近年、泳動する微生物に対する力学的・物理学的アプローチの研究が国際的に大きな注目を集めているが、ようやく微生物の単体運動に関する理解に手が届き始めたところに過ぎない。非平衡ダイナミクスの実例としてより重要で、現象の変化にも富んだそれらの集団運動については、理解が全く進んでいないのが現状である。これはこの分野の理論的手法が未熟であることに主な原因があり、ソフトマターで成功した新しい手法を導入することで大きなブレークスルーが期待できる。 我々はこれまでに、球状、および任意形状粒子の濃厚な分散系の直接数値計算を実現するSmoothed Profile(PS)法というシミュレーション法を開発している。平成26年度は、自己泳動するモデル微生物のレオロジー特性を評価するための準備として、泳動しないコロイド分散系のレオロジー特性を、粒子間の流体力学相互作用を直接ナビエストークス方程式の数値シミュレーションで評価するための方法論の大幅な拡張を行った。具体的には、均一なせん断流を実現するLees-Edwards 周期境界条件の下で、粒子分散系のレオロジー特性を評価するための定式化を行った。この拡張により、系の粘性を調べる際に一般的な定常せん断流だけではなく、粘弾性を調べる際に必要となる振動せん断流をも実現することが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究成果で、目的とするせん断流動下のモデル微生物集団について、系の全応力や任意の場所における局所応力など、レオロジー評価に必要な全ての物理量を直接数値計算で求めることが可能となった。また、モデル微生物が示す特異な集団運動について、先駆的な研究成果が得られている。これらの成果を踏まえて、新学術領域「ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 」内での共同研究を実施し、さらに領域内の公開シンポジウムで2回の講演を行っている。これらの状況から判断し、研究は順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は微生物単体のモデリングを行い、応募者等がこれまでに開発した通常の(パッシブ=自己泳動しない)コロイド分散系のための直接数値計算法を拡張し、モデル微生物の直接数値計算を実現した。押し出し型(Pusher)と引っ張り型(Puller)の違いを反映できる最も簡単なモデルとしてスクワマー(Squirmer)を採用した。複数のスクワマーに対して流体と粒子の連成問題を直接解く方法は初めての試みである。従来のコロイドからアクティブコロイドモデルへ拡張するために、コロイド表面での流体力学的境界条件をこれまでのノンスリップから、アクティブスリップに変換している。 平成27年度は、開発した直接数値計算法を用いて、モデル微生物分散系のシミュレーションを実施する。実験データと比較することによって、計算方法の妥当性を定量的に検証した後に、まずはモデル微生物個々の運動を解析する。次に流体を通して相互作用する多数のモデル微生物の動的な相関を明らかにし、微生物を効率よく正確にハンドリングするための基礎付けを行う。具体的には、実験データとの比較を通して、計算方法の妥当性を定量的に検証し、泳動するコロイド粒子個々の自己拡散に似た運動を解析する。さらに、微生物集団の動的性質の解明に取り組み、流体を通して相互作用する多数の粒子間 の動的な相関を明らかにし、最終的にはモデル微生物のハンドリング手法を確立させるための基礎付けを達成する。
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