2014 Fiscal Year Annual Research Report
マルチ励起光を用いた能動的測定による準安定状態にある分子系の研究
Publicly Offered Research
Project Area | Science on Function of Soft Molecular Systems by Cooperation of Theory and Experiment |
Project/Area Number |
26104502
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
吉澤 雅幸 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60183993)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 時間分解振動分光 / 誘導ラマン散乱 / 光機能性 / 励起状態 / カロテノイド |
Outline of Annual Research Achievements |
多様な準安定構造をもつ分子系の機能性を明らかにするには時間分解振動分光が有効である。本研究では、フェムト秒誘導ラマン分光法の測定精度を高めるとともに、同条件下で測定された自発ラマン信号との比較を行うことで、準安定状態における振動の動的変化を精密に測定する分光法を開発することを目的とした。 平成26年度には、まずフェムト秒誘導ラマン分光装置の改良を行った。励起状態の誘導ラマン信号を選択的に測定するためには共鳴効果の利用が有効である。しかし、共鳴励起では誘導ラマン散乱以外の信号も同時に現われてしまう。そこでラマン信号の波長はラマン励起光の波長に応じて変化することを利用して信号の分離を行うこととした。このために、ラマン励起光の波長をレーザーの繰り返しに同期して変調する装置を開発した。 改良したフェムト秒誘導ラマン分光装置をβ-カロテンに応用した。主励起後0.5 psの誘導ラマン散乱の測定結果には、S1励起状態のν1モード(C=C伸縮振動)信号が1780 cm-1付近に現われた。この信号は共鳴効果により正の値をもっており、S0基底状態や溶媒による負の信号と明確に区別できた。さらに、励起波長(400 nm, 490 nm)によりラマン信号のピーク位置に差があることが確認された。これは400 nm励起では高い振動準位が生成されているためであり、開発した装置により振動ダイナミクスを詳細に観測できることが示された。 光機能性をもつ分子系の多くは紫外領域に吸収をもつ。また、励起波長によって異なる機能性が現れる場合も数多く報告されている。このため、紫外領域で波長可変なフェムト秒励起光を開発した。光パラメトリック増幅器と和周波発生により紫外励起光(267 nmおよび330-360 nm)を得ている。紫外励起光の応用として有機半導体レーザーの可能性をもつBPFT薄膜単結晶の光励起状態を調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究計画は、フェムト秒誘導ラマン分光装置の性能向上とカロテノイド類への応用であり、これらはほぼ達成することができた。 測定精度の向上では、ラマン励起光の波長をピエゾ素子を用いた分光系で高速に変調することで、ラマン信号以外の共鳴信号を除去できるようになった。初期段階ではピエゾ素子から伝わる機械的振動が測定系に影響を与えていたが、防振の工夫を行うことで測定精度としてΔT/Tが10-4以下を達成した。しかも、従来よりも短時間での測定が可能となっている。 機能性をもつ分子系は紫外域に吸収をもつことが多いため、主励起光の波長を紫外領域に拡大する必要があった。このために、従来の主励起光である可視光とチタンサファイアレーザーの出力800 nmの和周波を発生することで330-360 nmの波長可変励起光を得た。群速度分散を行わない段階では、パルス幅が約400 fsとなっており時間分解能が十分ではなかった。しかし、プリズム対を用いた群速度分散補正系で最適化できることを確認しており、当初の計画である100 fs以下の時間分解能を得ることができる。 カロテノイド系への応用では、他の分光測定により推測されていた励起状態の振動緩和過程を精度よく測定することに成功した。さらに、紫外励起光の応用としてヘテロヘリセン系のフェムト秒分光を共同研究で行う準備を進めている。 また、当初の計画にはなかったが紫外域のプローブ光発生を行い、現在はその最適化による測定精度の向上を進めている。これにより機能性をもつ分子系をより詳細に調べることが可能となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に改良を行ったマルチ励起フェムト秒分光装置の最適化を行う。本研究で用いる装置の特徴は、基本的な測定方法であるPump-Probe法、マルチ励起分光法であるPump-Repump-Probe分光法、励起状態の振動測定が可能な共鳴フェムト秒誘導ラマン散乱および自発ラマン散乱を同一の条件下で測定できることである。これまでは、測定光学系を一部組み替える必要があったため、厳密な意味では同一条件ではなかったが、今年度の改良により同時測定を可能とする。 前年度に開発した紫外領域の分光光学系の改良を行う。励起光を最適化するために、プリズムを用いた群速度分散補正光学系を用いる。これにより、時間分解能を100フェムト秒以下として十分な時間分解能を得る。さらに、近紫外領域のプローブを行うためにCaF_2によるプローブ白色光の発生と回折格子による群速度分散補正を行う。これにより、柔らかな分子系の光学特性を広い波長領域で測定することが可能となる。 改良されたフェムト秒ラマン分光装置により、様々な分子系の励起状態の振動状態を測定する。前年度に測定したカロテノイド系については、主鎖の共役長が異なる試料について励起光波長依存性の測定を行う。これにより、励起エネルギーの違いによって生じる振動状態の違いが分子の緩和過程にどのような影響を与えるかを調べ、振動状態と光機能性の関連について明らかにする。 共同研究として、ヘテロヘリセン系の試料の測定を行う。ヘテロヘリセンは捩れた分子構造をもつ興味深い系であり、二つある発光ピークの強度比に励起光波長依存性があることが知られている。この試料について、超高速光学応答の励起波長依存性を調べることで、捩れた構造が光機能性に重要な緩和過程にどのような影響を与えているかを明らかにする。さらに、他の様々な試料について共同研究により光励起後の動的過程を明らかにしていく。
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Research Products
(12 results)