2014 Fiscal Year Annual Research Report
ヒストンテールのしなやかさに由来する動的挙動の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Science on Function of Soft Molecular Systems by Cooperation of Theory and Experiment |
Project/Area Number |
26104531
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
渕上 壮太郎 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 助教 (00381468)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 生物物理 / 柔らかな分子系 / ヒストン / イオンモビリティ質量分析 / 分子動力学シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、特定の構造をとらないヒストンテールが生み出す動的挙動の実態、および、その分子基盤を明らかにすることを目的として、イオンモビリティ質量分析(IM-MS)と分子動力学(MD)シミュレーションを用いて、以下の2つの課題に取り組んだ。 課題1.IM-MSによる測定で観測されたH2A/H2B二量体の構造多様性の創出機構解明:ヒストンH2A/H2B二量体が気相中で二峰性の構造分布を示す原因を明らかにするために、野生型二量体と2種類のヒストンテール欠損二量体について、IM-MS測定、および、MDシミュレーションを実行した。まず、IM-MS測定で得られた到着時間分布から衝突断面積を算出したところ、ヒストンテールが二峰性の構造分布を生じさせていることがわかった。その原因を探るべく、装置の各種電圧を変化させて測定したところ、装置内のヘリウムガスとの衝突によってヒストンテールの構造が変化することが原因であると示唆された。続いて、真空中およびガス中のMDシミュレーションの結果から衝突断面積の分布を求めたところ、いずれの二量体においても単峰の分布を示し、二峰性を再現するには至らなかった。今後、二峰性構造分布の形成機構について、さらなる検討を進めていく予定である。 課題2.MDシミュレーションによるヒストンテールのしなやかな動きの実態解明:柔軟なヒストンテールが示す複雑な運動を特徴付け、その分子基盤を解明すべく、ヒストンH2AのN末端テールを対象として、溶液中のMDシミュレーションを実行した。得られた結果に対して「時間構造に基づいた独立成分分析(tICA)」を適用することで、ヒストンテールが示す遅い運動を同定することができた。さらなる解析によって、特定された遅い運動が実際に起こっていることが確認された。現在、tICAで特定された遅い運動の発現機構や機能における意義について検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の計画では、ヒストンテールのしなやかさが生み出す動的挙動とその分子基盤を解明すべく、2つの課題:①IM-MSによる測定で観測されたH2A/H2B二量体の構造多様性の創出機構解明、②MDシミュレーションによるヒストンテールのしなやかな動きの実態解明、に取り組む予定であったが、前半の半分ほどを病気のため入院してしまったため、研究実施計画の7割程度を実行するに留まった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、特定の構造をとらないヒストンテールが生み出す動的挙動の実態、および、その分子基盤を明らかにすべく、以下の3つの課題に取り組む。 課題1.IM-MSによる測定で観測されたH2A/H2B二量体の構造多様性の創出機構解明:前年度に引き続き、IM-MS装置内で起こっていると予想されるH2A/H2B二量体の活性化過程を再現するべく、気体分子を露わに含んだシミュレーションを実行し、H2A/H2B二量体の構造多様性の創出程度やヒストンテールの動的挙動を調べる。 課題2.MDシミュレーションによるヒストンテールのしなやかな動きの実態解明:H2A/H2B二量体の残りの2つのヒストンテール(H2AのC末端テールとH2BのN末端テール)に対してH2AのN末端テールと同様の解析を行うとともに、得られた結果をもとにH2A/H2B二量体におけるヒストンテールの動的挙動についても解析を行う。 課題3.翻訳後修飾がヒストンテールの構造・ダイナミクスに与える影響の解析:課題1および2で明らかとなったヒストンテールのしなやかさに起因する構造多様性・動的挙動が、翻訳後修飾によってどのような変化を受けるのかを明らかにし、その分子機構を解明する。(1)アセチル化されたH2A/H2B二量体の解析:アセチル化酵素HATを用いてアセチル化されたH2A/H2B二量体に対して、質量分析によってアセチル化された部位を特定するとともに、課題1で行ったのと同様に、IM-MSとMDシミュレーションを組み合わせた解析を行う。(2)アセチル化されたH2AのN末端テールのシミュレーション解析:アセチル化されたH2AのN末端テールに対して課題2と同様の解析を行い、アセチル化がヒストンテールに与える影響を明らかにする。
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