2014 Fiscal Year Annual Research Report
星間物質表面上での水素分子の生成反応と核スピン転換に関する理論的研究
Publicly Offered Research
Project Area | Evolution of molecules in space: from interstellar clouds to proto-planetary nebulae |
Project/Area Number |
26108502
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
國貞 雄治 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00591075)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 水素 / 宇宙分子進化 / 第一原理電子状態計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,氷表面上での水素分子の挙動に関して研究を行った.まず,ファン・デル・ワールス力や水素結合を正確に取り扱うことができる非局所相関汎関数を用いた密度汎関数理論に基づく第一原理計算手法を援用し,氷表面の構造を決定した.本研究では表面近傍における電場の影響を考慮するために,常誘電性結晶氷Ih相と強誘電性結晶氷XI層を取り扱った.氷Ihベーサル表面において表面垂直方向の電場は存在しないが,氷XIベーサル表面は表面垂直方向の電場を有していることを明らかにした.次に,これらの表面上での水素分子の吸着状態と拡散特性を計算した.氷Ihベーサル表面上で,水素分子は表面から飛び出している酸素原子に結合軸を配向して吸着することを明らかにした.一方,氷XIベーサル表面上では水素分子は表面垂直方向に結合軸を配向して吸着する.の時,どちらの表面上の水素分子も表面近傍の局所電荷分布の影響を受けて分極することも示した.また,これらの表面上での吸着エネルギーを比較し,氷Ih表面上の水素分子のほうが安定であることを明らかにした. さらに,これらの表面上における拡散障壁を求めた.これらの吸着エネルギーと拡散障壁の大きさは実験的に観測されているものとほぼ同程度であり,本研究で用いている非局所相関汎関数と交換汎関数が妥当であることを意味している. これらの成果を1件の国際会議(Workshop on Interstellar Matter)と3件の国内会議(日本物理学会2014年秋季大会等)にて発表し,1件の招待講演(第30回ライラックセミナー・第20回若手研究者交流会)を行った.また,物性研究所計算物質科学研究センター第4回シンポジウム・物性研スーパーコンピュータ共同利用報告会ヴィジュアル賞を受賞した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はファン・デル・ワールス力や水素結合を正確に取り扱うことができる非局所相関汎関数を用いた密度汎関数理論に基づく第一原理計算手法を確立し,特性の違う二種類の結晶氷の表面構造を決定した.その後,研究の進捗に伴い,水素分子とこれらの表面の間の相互作用を知る上で,水素分子の吸着状態に着目することが重要であることが明らかとなった.そのため,当初の計画を変更し,二年目に行う予定であった,これらの結晶氷表面上における水素分子の吸着状態に関する研究を遂行し,二年目に行う予定であった計算をほぼ完了した.さらに,当初の予定に加え,水素分子の拡散特性に関する原子核量子ダイナミクス計算を組み合わせた計算も行い,氷表面上における分子進化反応に関する知見を得た.以上の点から,おおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までにファン・デル・ワールス力や水素結合を正確に取り扱える第一原理電子状態計算と原子核量子ダイナミクス計算を組み合わせた新規研究手法を確立した.この研究手法を援用し,氷表面上での水素分子の吸着特性と拡散特性を明らかにした.今後はさらに本研究手法を原子核量子ダイナミクスにフェルミ統計性と核スピン項を取り扱えるように拡張する.この新規手法を援用して氷表面上での水素分子生成時の核スピン状態を解明する.具体的には氷表面上での水素分子生成反応に関する計算を行う.まず,氷表面上における水素分子生成反応に関する6次元ポテンシャルエネルギー表面を求める.これらの結果を活用し,水素分子生成反応の量子ダイナミクス計算を行い,氷表面上での水素分子生成時の核スピン状態を求める.また,水素分子の核スピン転換機構の解明に関する研究を行う.これらの成果から,宇宙空間における水素分子の核スピン温度に正しい解釈を与えるための知見を得る.
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Research Products
(6 results)