2014 Fiscal Year Annual Research Report
星間化合物の量子スペクトルのシュレーディンガー・レベルの計算
Publicly Offered Research
Project Area | Evolution of molecules in space: from interstellar clouds to proto-planetary nebulae |
Project/Area Number |
26108516
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Research Institution | Quantum Chemistry Research Institute |
Principal Investigator |
中嶋 浩之 特定非営利活動法人量子化学研究協会, 量子化学研究協会研究所, 部門長 (80447911)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | シュレーディンガー方程式 / 星間分子 / Non-BO計算 / 励起状態 / 水素クラスター |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、我々の研究グループが独自に開発してきた、シュレーディンガー方程式の正確な解法に基づく新しい量子化学理論を星間分子群に適用し、精密な量子化学の立場から宇宙の物質科学の諸問題に取り組むことを目的としている。精密な電子・振動・回転励起スペクトルや化学反応素過程の計算を行い、宇宙の分子進化の解明に向け第一原理に基づく信頼のおける基礎データを提供する。特に、量子的効果が際立つ極低温・極低密度の星間空間では、地球上の化学反応では熱雑音として無視できるレベルまで高精度に解く必要がある。本年度は、シュレーディンガー方程式の正確な解法を一般的な星間分子群に有用に適用するため、理論の開発者である中辻と共に、理論と方法論自身とシミュレーションプログラムの開発と発展に取り組んだ。星間分子として存在するC2H2(アセチレン), C2H4(エチレン), H2CO(ホルムアルデヒド)などの有機化合物の計算では、絶対エネルギーとしても化学反応を十分に議論できる精度(kcal/mol)の解を得ることができた。また、計算アルゴリズムの改良で、適用可能な分子系を飛躍的に拡大することができた。また、既存の精密な励起状態理論(SAC-CI理論)を宇宙で重要なカチオン種やアニオン種の電子励起スペクトルの計算に適用し、定量的に実験スペクトルを再現することができた。また、原子核の運動を量子的に扱うNon-Born-Oppenheimer (Non-BO) 計算は、特に水素クラスターの関わる反応において、拡散やトンネル効果を伴う宇宙の化学反応では必須である。Non-BO計算の量子化学研究はこれまでほぼ皆無であるが、この計算を実現する計算プログラムの開発にも取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の主な目的は、星間分子群の精密な量子化学計算を実現する計算プログラムの開発であり、おおむね達成することができた。原子核の運動の量子効果を取り入れた水素クラスターの精密なNon-Born-Oppenheimer (Non-BO) 計算プログラムは、さらに改良を重ねる必要があるが、平成27年度の目的であるC, N, Oを含む有機化合物の計算に繋げたい。また、既存の精密な励起状態理論(SAC-CI理論)を用いた、カチオン種やアニオン種の電子励起スペクトルの計算は当初の目的以上の成果である。これらを勘案し、「②おおむね順調に進展している。」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に引き続き、原子核の運動の量子効果を取り入れた水素クラスターの精密なNon-Born-Oppenheimer (Non-BO) 計算を展開し、C, N, Oを含む有機化合物の合成経路の精密計算にも取り組む。C, N, O の原子核はH 原子核に比べ重いため、それ自身の原子核の運動の量子効果は小さくなるが、水素原子の振動・回転運動とカップルし、複雑な電子・振動・回転構造を示すことが予想される。天文学の観測や極低温下の実験研究では、これらの分子の様々な測定が行われており、新たな振動・回転励起状態が多数報告されており、本研究により実験スペクトルの精密な理論的同定を行う。 また、本学術領域の計画班や他の公募研究との連携を深めるため、分子進化のミクロ過程で重要な氷表面や塵表面の分子吸着や拡散過程を探求する。星間塵のアモルファス氷表面では、極低温下にも関わらず、水素分子のトンネル効果や拡散を経て各種の有機化合物が合成されることが知られているが、その量子論的メカニズムがはっきり分かっていない。本研究では、まず、MD計算等で確定されたアモルファス氷の構造をクラスターモデルでモデル化し、その表面の模擬環境での量子論的な反応ポテンシャルを計算する。また、星間分子雲のスペクトルとして測定されているDiffuse Interstellar Bandの分子同定を、高精度励起状態理論であるSAC-CI法を用いて計算を行う。本研究で得られる反応素過程の吸着エネルギーや拡散エネルギー等の知見を、マクロレベルの理論シミュレーションに応用できるようにデータを提供する。系に応じて適した量子化学計算理論を駆使し、本領域の発展に貢献していきたい。
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