2014 Fiscal Year Annual Research Report
超低速ミュオンをプローブとするカイラル磁性体の電子状態の理論
Publicly Offered Research
Project Area | Frontier of Materials, Life and Elementary Particle Science Explored by Ultra Slow Muon Microscope |
Project/Area Number |
26108706
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松浦 弘泰 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40596607)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | カイラル磁性体 / ジャロンシスキー守谷相互作用 / スピン軌道相互作用 / 超低速ミュオン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、カイラル磁性体の発現機構やその電子状態の解明、超低速ミュオンを用いたその電子状態の検出に関する理論的研究、また、これらに関連した事項に関する研究を行っている。これまでの研究の結果、以下の項目を明らかにした。 1)らせん構造を持つ物質中を移動する電子は、スピン軌道相互作用により、軌道間の移動積分に構造に由来する位相を持つことを微視的模型から明らかにした。さらに、この系に電子間のクーロン相互作用を導入することで、スピンがらせんに巻くために必須な相互作用である”ジャロシンスキー守谷相互作用”を導出することができた。 2)カイラル磁性体の起源の一つであるスピン軌道相互作用を詳細に理解するため、スピン軌道相互作用が特に大きな系である5d電子系を研究した。その結果、スピン軌道相互作用が大きな場合の5d電子系間の超交換相互作用を微視的に導出する方法を定式化し、量子コンパス-ハイゼンベルグ模型が得られることが分かった。 3)量子臨界磁気ゆらぎが反対称スピン軌道相互作用に及ぼす影響を調べ、量子磁気臨界点近傍ではフェルミ面が顕著に変形を受けるとともに,スピン軌道相互作用により分裂した二つのバンドの質量のくりこみ効果が逆になることを示した。(本研究内容は、Journal of Physical Society of Japan 2015年3月号のPapers of Editors' choiceに選ばれた。) 4)グラフェンにおける欠陥誘起近藤効果が、点欠陥に現れたsp2電子の持つ局在モーメントとその周りに現れるπ電子由来の局在軌道との相互作用により強められることを数値くりこみ群により示した。また、磁場を印加すると軌道磁性の効果により近藤温度が劇的に減衰する可能性があることを磁場下の強束縛近似による電子状態の計算から明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は具体的な物質に則してカイラル磁性体の電子状態の研究を行う予定であったが、超低速ミュオンでの新学術領域の関係者との議論を通し、カイラル磁性体全体を包括できるより抽象的な観点からの研究を行うことができた。結果として、結晶の持つらせん構造とスピンのらせん構造との微視的な関係性、さらに、固体中におけるスピン軌道相互作用の役割をより詳細に明らかにできた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初行う予定であった、具体的な個々の物質でのカイラル磁性体の電子状態やその発現機構に関する理論的研究を行うことを予定している。これまでの研究から、絶縁体・伝導体など物質の電子状態の違いにより、カイラル磁性の微視的な発現機構(ジャロシンスキー・守谷相互作用の微視的起源)が異なることが分かってきた。種々の物質でのその発現機構の違いをより明確にする。また、これらの研究を通して、カイラル磁性体の電子状態を明らかにすることできるミュオン実験を提案することを目指す。
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