2014 Fiscal Year Annual Research Report
微視的不均一状態から生まれる巨視的量子状態の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Frontier of Materials, Life and Elementary Particle Science Explored by Ultra Slow Muon Microscope |
Project/Area Number |
26108716
|
Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
森 道康 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 副主任研究員 (30396519)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 高温超伝導 / 頂点酸素 / 不均一性 |
Outline of Annual Research Achievements |
実験手法が進歩し精度が向上したことで、電子状態の空間的不均一性が詳細に観測できるようになった。Biなどを含む正孔ドープ型の高温超伝導体では、電荷供給層に化学量論比を超えた過剰酸素が取り込まれることで正孔が供給される。過剰酸素の空間分布は走査型トンネル顕微鏡を用いて観測することができ、エネルギーギャップの空間的不均一性と強く相関している。そして、ビーム径を絞ったX線を用いた微小領域から得られる局所的回折パターンを調べることで、過剰酸素の空間分布が均一であると超伝導転移温度が上昇すること報告されている。このように、銅酸化物高温超伝導体では、結晶中における酸素原子の存在形態と物性との相関を理解することが重要である。微視的不均一性と巨視的物理量との相関を解明する必要がある。ドープ量の少ない領域の試料に対して、磁場下の核磁気共鳴(NMR)やX線散乱の実験によって電荷密度波状態が見つかっている。この新しく見つかった状態の起源も、空間不均一と関連している可能性がある。 そのため、銅酸化物高温超伝導体における実空間電子状態計算を行った。過剰酸素もしくは酸素欠損による空間的不均一性含んだt-J模型にGutzwiller近似を用いてBogoliubov-de-Gennes方程式を解き、過剰酸素や酸素欠損によって誘起される電荷密度にどのような相関があるかを調べた。その結果、過剰酸素のクラスターが結晶の対称性と異なる場合、現れる電荷密度分布も結晶の対称性とは異なる可能性が見えてきた。この結果は、X線などで観測されている電荷密度波状態の特徴と一致する。さらに、一重項電子対秩序がある場合と無い場合とで、誘起される電荷密度分布にどのような違いが現れるかを調べた。その結果、過剰酸素や酸素欠損ごく近傍に現れる電荷密度に大きな違いがあることが分かってきた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過剰酸素や酸素欠損による不均一な電子状態を数値計算によって求めることが出来ることを確認した。残りの期間で、実験データと対応付けが出来るようにする。これまで、複数の論文を学術誌で出版することが出来た。また、国際会議や学会で、招待講演を含め成果発表も行った。研究成果の一部はプレス発表を行い、新聞などで紹介された。従って、研究は概ね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
T'型と呼ばれる銅酸化物は、頂点酸素を持たない。これまで、電子ドープ型だと考えられてきたが、最近の研究はキャリアドープしない状態で超伝導になる可能性が議論されている。この場合も、過剰酸素の存在と分布が重要な鍵を握ると考えられている。現在盛んに議論されているノンドープ超伝導の可能性を探る。また、実空間電子状態計算を基礎に据え、ハードウエア(測定装置)からくる限界をソフトウエア(理論・解析手法)で突破することを目指す。ビーム径よりもさらに小さな長さスケールで起きている電子状態の情報を引き出す方法を見つけ出す。得られた情報をもとに、銅酸化物高温超伝導体で現れる微視的不均一状態と、巨視的量子状態である超伝導状態とを結びつける理論の構築を行う。
|