2014 Fiscal Year Annual Research Report
分子性固体における磁性・電子状態とミュオン -第一原理計算による研究-
Publicly Offered Research
Project Area | Frontier of Materials, Life and Elementary Particle Science Explored by Ultra Slow Muon Microscope |
Project/Area Number |
26108720
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
圓谷 貴夫 独立行政法人理化学研究所, 加藤分子物性研究室, 特別研究員 (00619869)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 分子性導体 / 第一原理計算 / スピン液体 / 電子状態 / バンド構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来の分子性導体では、フェルミ面近傍の電子状態を一つの「rigid」な分子軌道が決定する場合が多いが、そのような枠組を超えた系においても第一原理計算手法は威力を発揮する。今年度は、複数の分子軌道が電子状態に関与する分子性導体β'-X[Pd(dmit)_2]_2と分子間の水素結合が電子状態と関わっているκ-H_3(Cat-EDT-TTF)_2について研究を進めた。
1)β'-X[Pd(dmit)_2]_2は、二量体[Pd(dmit)_2]_2あたりS=1/2のスピンをもつMott絶縁体である。カチオンを置換すると反強磁性状態、量子スピン液体、電荷秩序状態といった多様な基底状態を示す。カチオンが異なる一連の同型物質群に対して第一原理計算を実行し、電子構造の違いを調べた結果、二量体[Pd(dmit)_2]_2が形成する2次元三角格子の異方性を反映した電子状態を示すことがわかった。さらに、Pd(dmit)_2分子は二量体を形成するとPdを挟んだ左と右のdmitリガンドで電子密度に偏りがみられることが第一原理計算から明らかとなり、これはHOMOだけでなく(対となるPd(dmit)_2分子の) LUMOや他の分子軌道の混成があることを示している。有効フラグメントモデルによる解析から、この混成の度合い(多軌道性)と三角格子構造に起因した幾何学的なフラストレーションによって、それぞれ多様な秩序状態の系統性を調べることができた。
2)水素結合を含む分子性導体κ-H_3(Cat-EDT-TTF)_2は、常圧ではMott絶縁体と考えられ、スピン液体状態を示す可能性が実験的に示唆されている。この物質は、他の多くの分子性導体と異なり、伝導層間に絶縁層が存在せず、異なる伝導層のCat-EDT-TTF分子間で水素(H)を共有する特異な構造を有する。共有されたHの役割を明らかにするために、Hのポテンシャル面を求め、水素の量子効果の役割を議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2つの分子性スピン液体物質系の電子状態に関して、新たな見地を得ることができた。また、モデル計算との連携により、多様な秩序状態の系統性を調べることができた。分子性導体に対するスピンの自由度を考慮した電子状態計算およびミュオンのストッピングサイトの探索に関しても取り組んでいく。
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Strategy for Future Research Activity |
μSR実験において、試料に打ち込まれたミュオンは静電的に安定な位置に止まり、物質中からの有効磁場を感じ、崩壊時間後に放出されたものを観測するため、磁気的状態の情報を得る強力な手段である。しかし、その解釈には物質中でミュオンがどのような位置に止まっているのかが大変重要であり、これを実験のみで特定することは難しいという課題がある。今後、第一原理計算手法を用いてミューオンのストッピングサイトの探索を行っていく。最近、Pd(dmit)_2系に対するミューオン・スピン回転(μSR)実験が行われており、実験家と連携をとりながら、この系をターゲットに探索を行っていきたい。
最近、κ-H_3(Cat-EDT-TTF)_2に対して、Hを変位させた状態から構造最適化を第一原理計算により行った結果、Hが片方の酸素の方向に局在化した場合に、異なる分子間で電荷の不均一化が起こることがわかった。いくつかの超格子を仮定し、(重)水素の並び方を変えたいくつかの秩序パターンの安定性を調べる。重水素置換した際に観測される低温重水素秩序相との対応、S体とSe体での水素の存在状態の違いについても議論する。
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