2014 Fiscal Year Annual Research Report
X線非弾性散乱実験によるLPSO相のダイナミクス
Publicly Offered Research
Project Area | Materials Science of synchronized LPSO structure -Innovative Development of Next-Generation Lightweight Structural Materials- |
Project/Area Number |
26109716
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
細川 伸也 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (30183601)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 弾性 / Mg合金 / ミクロ / 非弾性散乱 / LPSO / 不純物効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
LPSO型Mgは、通常のMgと異なり、同期した長周期の積層欠陥、すなわち構造と不純物濃度の変調が同期した特異な構造を持ち、それがひずみに対してキンク・バンドを形成することによって優れた弾性的特性を示す。X線非弾性散乱(IXS)は、大型放射光施設を用いて初めて実現された物質中の原子ダイナミクス、例えばフォノンの励起エネルギーや寿命、伝搬距離、あるいは原子の拡散定数などを正確に観測することが可能である。本研究の目的は、IXSにより超高強度Mg合金の弾性的性質を原子レベルのミクロな視点より明らかにすることである。 本助成によりこれまで、IXS用真空チャンバーを設計、購入し、別予算で購入した単結晶サファイア薄板X線窓と組み合わせて、小角でのIXS実験に本質的な、空気散乱によるバックグラウンドを1%以下に抑えた。SPring-8のIXSビームラインBL35XUで6日間のビームタイムを確保し、Mg85Zn6Y9 LPSO合金および純粋α-Mgの多結晶を計画班より提供いただき、IXS測定を室温で行った。 純粋α-Mgの測定では、縦波および横波音波に対応する励起ピークが鮮明に観測できた。また、縦波の分散関係は音速から予測できる分散とほぼ一致しているが、横波の分散はやや高エネルギーにあり、ミクロとマクロな弾性的性質にはせん断方向に限って違いが見られる。一方、Mg LPSO合金の結果は、まず励起モードの信号が著しく小さく、積層欠陥や不純物の存在によるフォノンの散乱に対応していると考えられる。また、縦波音波の励起エネルギーは、音速から予測できる値を少し上回っている。さらにミクロなポアソン比はマクロな値よりかなり小さく、LPSOに存在する不純物クラスターがひずみに対して非常に強固な形状保存性を示していると考えられる。得られた結果について今後はさらに詳細なデータ解析を行い、また理論計算の結果と比較したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では本年度は、新しい真空容器の整備を行い、SPring-8のBL35XUビームラインで調整を行う予定であった。しかしながら、これまでの経験を生かして設計を非常に早く行ったうえ、特注であったにもかかわらず製作会社に非常に努力していただき、本年度前半のうちに装置の整備が終わり、後半には実験を行うことができた。試料がこれまでに経験のない多結晶であったため、データの取得も難しいことも考えられたが、十分なビームタイムがSPring-8で認められたことで、非常に統計精度の良い結果が得られた。この結果は既に昨年10月に行われた国際シンポジウム「The 2nd International Symposium on Long-Period Stacking Ordered Structure and Its Related Materials」で口頭発表を行っただけでなく、国内での学会でも3件の口頭発表を行った。また、本年度にはロシアのトリアッチで開催されるマグネシウム合金に関する日露セミナーや韓国の済州島で開催される第10回マグネシウム合金とその応用に関する国際会議にも口頭発表を行うことが内定している。また、Materials Transaction誌にも論文が掲載されることが決定している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方針を以下に示す。 1. 不純物濃度が低く、LPSO相も20%程度のMg97Zn1Y2合金の多結晶を対象としたIXS測定を室温で行い、フォノン物性の不純物濃度依存性を明らかにする。 2. これまで行ってきた多結晶試料について、材料加工上重要な高温でのIXS測定を行い、その温度特性を明らかにする。 3. 単結晶試料を単独で0.1 mm程度の大きさに切り出し、LPSO単結晶のフォノン分散の結晶方位依存性を明らかにする。得られたIXS信号を、フォノンのモデル関数として信頼性の高い減衰振動子モデルを用いて解析し、そのミクロな弾性的性質を明らかにする。 4. X線とは異なる散乱断面積を持つ中性子を使った非弾性散乱を行い、元素ごとのダイナミクスを明らかにする。 これらすべての実験計画について、放射光施設SPring-8やHiSOR、中性子施設J-PARCに、既に課題申請を行い、採択されている。
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