2014 Fiscal Year Annual Research Report
ショウジョウバエモデルによるクローン病発症の分子機構解明
Publicly Offered Research
Project Area | Multidisciplinary research on autophagy: from molecular mechanisms to disease states |
Project/Area Number |
26111502
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
矢野 環 東北大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (50396446)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 炎症性腸疾患 / オートファジー / ショウジョウバエモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
オートファジー不全は炎症性腸疾患であるクローン病の重要な発症原因であるが、その分子機構は多くが不明である。我々は、ショウジョウバエクローン病モデル系を確立し、腸管上皮細胞特異的オートファジー不全が、上皮細胞極性異常と幹細胞異常分裂を引きおこすこと、また、これらの異常はクローン病と同様、腸内細菌に依存していることを見いだしてきた。本研究では、オートファジー不全が腸管上皮細胞異常をもたらす分子機構の解明と、オートファジー不全による腸内細菌叢の腸管恒常性破綻における役割の解明を目的としている。本年度は、腸内細菌叢を細菌の16S rRNAゲノム配列を次世代シーケンサーで網羅的に解析することにより、腸管上皮細胞特異的オートファジー不全による細菌種の変化を検討した。その結果、上皮組織に異常が見られるオートファジー不全個体の腸内細菌叢は、異常の見られないコントロール個体のそれとほとんど変化が見られず、腸内細菌に反応して上皮細胞から産生される活性酸素種 (ROS)の産生にも差は見られなかった。しかしながら、ROS産生酵素DUOXの上皮細胞特異的ノックダウンにより上皮組織の異常は完全に回復した。驚くべきことに、オートファジー不全腸管内では病原性細菌が全く検出されないにもかかわらず、それらの経口感染時に活性化するJNK経路の活性化がオートファジー不全に依存的に起き、これは無菌個体、あるいは1種の非病原性細菌により細菌叢を再構築した腸管では観察されなかった。これらの結果は、オートファジー不全がおこす腸管恒常性の破綻は、異常な腸内細菌によるのではなく、常在菌に対する上皮細胞の応答の異常亢進によっていることを示唆している。これは、クローン病マウスモデルでは解明されていない新規な知見であり、クローン病の病態発症機構の解明に新たな局面を提供するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究目的の1つである、腸内細菌叢の腸管上皮組織オートファジー不全による恒常性破綻における役割解明については、比較的細菌叢が単純であるショウジョウバエの利点を生かし、また、ショウジョウバエにおける遺伝学的手法と組み合わせた細菌叢の網羅的解析により、腸管上皮細胞におけるオートファジー不全は細菌叢を変化させるのではなく、常在菌に対する上皮細胞の感受性の異常亢進をもたらすということを明らかにした。これは研究開始時には予想できなかった新規な知見であり、単に研究目的の1項目を解明したのではなく、クローン病における腸管上皮細胞の機能不全の分子機構を解明する上で大きな一歩である。また、オートファジー不全モデルマウスに見られる腸内細菌叢の変化は、炎症の結果として副次的に生じた可能性が示唆された。これは、ショウジョウバエモデルを用いたことにより初めて解析が容易になった事項であり、研究方針の特色を生かすことができた。 さらに、腸管上皮組織恒常性におけるオートファジーの機能は、常在菌により与えられる弱いシグナルに対する細胞内シグナル経路の異常亢進の抑制であり、自然炎症の制御としての新たな局面を具体的に示すことができた。オートファジー不全により異常亢進するシグナル経路の同定も、遺伝学的な手法による証明を終了しており、これまでに報告のない、きわめて新規な知見を得ている。オートファジーが正常である場合に制御されているシグナル伝達経路については、分子レベルでの証明を残すのみとなっている。 このシグナル経路はショウジョウバエからヒトにまで、その関与する因子のほとんどが保存された細胞内シグナルであるため、ヒト培養細胞を用いた検討に速やかに入ることができる知見を得ることができた。 以上の成果は、本研究の目的であるクローン病病態の分子機構解明に大きく寄与すると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
実績、および達成度に記したように、ショウジョウバエモデルを用いた検討は、今年度において当初計画した内容を越える成果を得た。したがって今後は、以下の2点に集中して研究を推進する。 まず1点目として、オートファジーによって腸管上皮細胞において制御されるシグナル伝達経路の分子同定をショウジョウバエ個体、組織、細胞を用いて、詳細に行う。これまでに同定した経路の因子の量の上昇が、オートファジー不全により腸管上皮細胞内でおきるかを、組織抗体染色やwestern blottingにより解析する。また、それらの因子がオートファゴソームに取り込まれるか、それに選択性があるかを解析する。さらに、細胞極性とオートファゴソームにより分解されるそのシグナル因子との関係を組織染色により検討する。またこれまでに、オートファジー不全は腸管上皮細胞に極性異常をもたらすが、腸内細菌のような外来シグナルが入らない上皮細胞には極性異常をもたらさないことを明らかにしている。そこで、腸内細菌がオートファジー不全上皮細胞に与えるどのようなシグナルが極性異常をもたらす上流シグナルを解明する。 2点目は、ほ乳類培養細胞を用いて、ショウジョウバエモデル系で明らかにしたオートファジーの上皮細胞における機能を検討する。極性を有する上皮細胞であるMDCK細胞とその3D cyst培養を用いることで、細胞間接着や細胞極性とオートファジーにより制御されるシグナル伝達経路の関係を明らかにしていく。ほ乳類細胞、組織における検討の技術上の問題点は、共同研究等により解決する。 以上の検討により得られる知見はすみやかに論文として公表する。これらは、外部刺激の入る上皮組織における細胞極性、細胞接着の維持におけるオートファジーの機能を明らかにするのみならず、腸管上皮組織におけるオートファジー不全に起因するクローン病の根治療法への新たな知見を提供する。
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