2014 Fiscal Year Annual Research Report
同種および異種配偶子の雌雄不均等融合により作出した受精卵の発生能
Publicly Offered Research
Project Area | Correlative gene system: establishing next-generation genetics |
Project/Area Number |
26113715
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
岡本 龍史 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (50285095)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 配偶子 / 受精 / 胚発生 / ゲノム / 交雑 / 植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の受精卵における母親ゲノムと父親ゲノムの比は1:1、一次胚乳細胞におけるそれは2:1である。この両親ゲノムの量比は種子の形成に大きく関与しており、両親ゲノムの量比がある閾値を超えると種子形成が不全となることが知られている。この両親ゲノム比は、種子形成における胚乳の発達機構と密接に関連しており、その機構は、主に中央細胞、精細胞および胚乳ゲノムのエピジェネティック制御により説明されている。また、異種間交雑により生じる種子形成不全についても、胚乳発達不全が主要因であるとされている。一方、胚の形成および発達過程に関しては、「受精卵中の同種あるいは異種の雌雄ゲノム比と胚発生の関係性」についての明確な知見は得られていない。本研究では、in vitro受精系を用いて、同種雌雄ゲノム比および異種ゲノムを任意の組み合わせで受精卵中に存在させ、それらゲノムが胚発生に与える影響を実験発生学的に示すとともに、胚発生過程における雌雄ゲノムの機能と異種ゲノム間の相関関係を明らかにすることを目的とする。 同種雌雄ゲノム間の相関関係については、雌性ゲノム過剰の受精卵は正常発生するが、雄性ゲノム過剰は受精卵の発生停止を引き起すこと、および、受精卵中における雌雄ゲノムの機能に違いがあることが示された。今後は、今回示唆された、受精卵発生過程における雌雄ゲノムのエピジェネティック制御機構について解析を進める。また、異種ゲノム間の相関関係については、異種ゲノム間の軋轢がごく初期の交雑初期胚で生じている可能性が示された。今後は、交雑初期胚におけるゲノム脱落の有無に着目して解析を進めるとともに、受精卵中における異種雌雄ゲノム比が異種ゲノム間の軋轢に及ぼす影響についても解析を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(a) 異なる比で同種雌雄ゲノムをもつ受精卵の発生能 : 卵細胞と精細胞を1:1の比でin vitro融合させた受精卵(2倍体)の約80%は正常に発生したが、卵細胞同士を融合させた融合細胞は分裂せず、それらの一部は異常で不均一な核分裂を行った。興味深いことに、前述の卵細胞同士の融合細胞にさらに精細胞を融合させると、その融合細胞(3倍体受精卵)は2倍体と同程度の発生能を示した。さらに3個以上の卵細胞と1個の精細胞を融合させた受精卵(4, 6, 8倍体)の発生率も2倍体とほぼ同様であった。一方、1個の卵細胞に2個の精細胞あるいはゲノム量が倍である4倍体由来の精細胞を融合させた3倍体受精卵では、高い確率で、初期発生段階(核融合あるいは核融合後の第一分裂の過程)で発生が停止した。これらの結果は、雌性ゲノム過剰の受精卵は正常発生するが、雄性ゲノム過剰は受精卵の発生停止を引き起すこと、および、受精卵中における雌雄ゲノムの機能に違いがあることを示唆している。 (b) 異種ゲノムもつ交雑受精卵の発生能 : イネ、トウモロコシ、およびコムギ花から配偶子を単離したのち、イネ卵細胞とトウモロコシ精細胞、およびイネ卵細胞とコムギ精細胞の交雑受精卵を作製したところ、トウモロコシ-イネ交雑卵は約100細胞胚、コムギ-イネ交雑卵は約10細胞胚のステージで発生が停止した。これらの結果は、異種ゲノム間の軋轢が交雑初期胚で生じている可能性を示唆している。 上記のように、同種雌雄ゲノム比と受精卵発生の関係や、交雑受精卵の発生プロファイルを明確にすることが出来ていることから、本研究課題はおおむね予定通りに進行していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(a) 受精卵の発生と雌雄ゲノム比 雌ゲノムを過剰にもつ受精卵由来の初期胚、雄ゲノムを過剰にもつ受精卵由来の初期胚、および通常の受精卵由来の初期胚(雌雄ゲノム=1:1)をそれぞれ10個体ずつ作製し、それらから全RNAおよびゲノムDNAを単離する。次に、イネ初期胚で発現し、胚発生に関与すると推定される転写因子 (OsWOX5, OsMPK3, OsMKK6, OsWRKY42) を発生のマーカー遺伝子として、それらの発現をそれぞれの胚で確認する。さらには、それら初期胚を用いたトランスクリプトーム解析およびゲノムDNAメチル化解析等を行うことにより、雌性あるいは雄性ゲノムの過多により初期胚の中の転写パターンやゲノム修飾状態にどのような変化が現れるのか明らかにする。 (b) 交雑受精卵の発生と異種ゲノム 交雑初期胚におけるゲノム脱落の有無に着目して、細胞遺伝学的な解析を進める。また、異種配偶子について、それらの雌雄配偶子比を任意に変化させた受精卵を作出することで、どのような異種・雌雄ゲノムの組み合わせをもつ交雑受精卵が発生能を有するようになるか見つけ出す。次に、発生が進行する交雑受精卵由来の初期胚と、その受精卵に最も近いゲノムの組み合わせをもち、かつ発生が停止してしまう受精卵由来の初期胚をそれぞれ10個体ずつ作製する。その後、細胞遺伝学的解析により2種の初期胚中における異種親それぞれのゲノムの保持、脱落、ヘテロクロマチン化などのゲノム状態を調べる。さらに、ゲノムDNA解析やトランスクリプトーム解析などを行うことにより、それぞれの種のゲノム由来の遺伝子発現パターンやゲノム修飾状態の違いを明らかにする。
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