2014 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト卵子再生と卵胞完全体外培養による新たな不妊治療法の開発
Publicly Offered Research
Project Area | Mechanisms regulating gamete formation in animals |
Project/Area Number |
26114510
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Research Institution | St. Marianna University School of Medicine |
Principal Investigator |
河村 和弘 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 准教授 (10344756)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 生殖細胞様細胞 / 卵巣髄質 / 組織分散 / カルシウムシグナル / 卵子 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで、成体の卵巣に存在する生殖細胞は卵子のみとされてきた。しかし、Tillyらの研究グループはヒト卵巣皮質に、卵子ではない生殖細胞様の細胞が存在することを示した。我々も独自の研究によって卵巣皮質ではなく、卵巣髄質に生殖様の細胞が存在していることを明らかとした。これらの細胞は髄質内では生殖細胞特異的な遺伝子であるPRDM1の発現はほとんど認められないが、Collagenaseによる組織分散によってPRDM1の高い発現が認められた。これらの結果は、髄質内に本来の生殖細胞としての運命決定を抑制している未知の系が存在しているのではないかと推察した。そこで、未知の系の一端を解明するために、組織分散時にシグナル系を抑制する抑制剤を複数使用して、シグナル系による影響を検討した。その結果、カルシウムキレーターのBAPTA-AMを用いて組織分散を行ったときにPRDM1の発現を抑制することが明らかとなった。これらの結果は、髄質内では、見出した生殖様細胞のカルシウムシグナルがキレートされることにより生殖細胞として抑制されているのではないかと示唆された。さらに、組織分散を行った細胞群に対して、Tillyらが報告したLIF、GDNF、EGF、bFGFを添加して培養を行ったところ、細胞増殖が認められ、10継代以上の細胞分裂を維持している。興味深いことに、サイトカインの4因子を添加しない場合は、細胞数は全く増加しないが、その後サイトカインを添加すると再び増殖することが認められた。増殖した細胞は、ZP1、2、3やPUM1, 2などの生殖細胞として知られている一部の遺伝子発現は維持していたが、PRDM1などの遺伝子は著しく低下した。また、培養を継続することで、10日後から直径30µmを超える細胞が発生し、一カ月後には培養細胞のおよそ5%の細胞が直径30µmを超えており、形態学的に卵子に酷似した形態をしており、内部には前核のような構造を持っていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに、髄質由来から生殖様の細胞を見出し、それらの細胞を回収して、髄質細胞のコンディションドメディウムを添加し、培養を継続すると卵胞用構造を持った組織が形成されることを見出している。しかし、当初これらの結果に対する分子生物学的な裏付けがないことから、組織分散前の卵巣髄質、分散後の卵巣髄質、さらにTillyらの既報にならいLIF、GDNF、EGF、bFGFを添加した培養液で髄質由来細胞の培養を行い、生殖細胞から卵子への分化に必須であるとされている遺伝子群(PRDM1、DAZL、STRA8)の発現をRT-PCRによって定量した。それらの結果、生殖細胞特異的なPRDM1遺伝子は組織分散によって高い遺伝子発現が認められたが、培養によってその発現を低下させた。本来の生殖細胞も同様にPRDM1遺伝子の発現を低下させるが、それは減数分裂移行期に移るためであり、その過程でDAZL遺伝子を発現し、その後STRA8などの減数分裂期に発現する遺伝子を発現する。したがって、培養を行った細胞に対しても、減数分裂期に発言する遺伝子発現を調べたが、DAZLなどの遺伝子は検出されなかった。したがって、培養によって得られた卵子様の細胞は、生殖細胞としての最大の特徴である減数分裂を行っていないことが明らかとなった。そこで、卵胞用構造の試験を取りやめ、見出した未知の生殖様細胞の減数分裂誘導法の開発を行う必要が発生した。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒト卵巣髄質で同定した生殖様細胞は、Tillyらが報告した手法で培養を行っても減数分裂を誘導することは困難であった。そこで、得られた生殖様細胞が発生能を有する生殖細胞へと分化誘導させるために、既報に倣い、新たな培養法を開発する。現在、ES細胞などの全能性を持つ細胞から始原生殖細胞を分化させることに成功した報告が複数ある。例えば、ES細胞にBMPを添加することでDAZL陽性細胞へと分化させることに成功した報告があり、本研究においても同定した細胞を用いてBMPを添加した培養液でDAZL遺伝子の発現を定量する。さらに、斎藤、林らは、ES細胞、iPS細胞から始原生殖様細胞へと分化させることに成功し、さらにそれらを個体の生殖器へと戻し移植することで、精子や卵子などの分化に成功している。本研究はこれらの手法を模倣するために、ヒトでは困難であるためにマウスでも同様の細胞が認められるか確認する。さらにそれらの細胞が認められた場合、卵子特異的に蛍光色素を発現するStella-ECFPマウスを導入して減数分裂の導入、卵子の作出を試みる。これらの手法が機能した場合は、ヒトやサルを用いて同様の試験を行い、同定した細胞が減数分裂能を有し、さらに卵子形成能を有するか検証を行う。
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