2014 Fiscal Year Annual Research Report
細菌べん毛本数を厳密に制御する分子機構
Publicly Offered Research
Project Area | Spying minority in biological phenomena -Toward bridging dynamics between individual and ensemble processes- |
Project/Area Number |
26115705
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小嶋 誠司 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70420362)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 細菌べん毛 / FlhF / FlhG |
Outline of Annual Research Achievements |
ビブリオ菌は細胞の極に1本だけべん毛を形成する。極べん毛の位置と本数は、GTPaseのFlhFが正に、同一オペロン上のATPaseであるFlhGが負に制御することがわかっている。本研究では、FlhFとFlhGの生化学的性質および細胞内動態に焦点を当て、これら細胞極における数のバランスがべん毛数を決めるしくみの解明に取り組んだ。 本年度は、これまで進めてきたFlhG ATPaseモチーフ変異体の解析を完了した。まとめると、ATP結合に必要とされる残基に変異 (K31A、K36Q)が入ると、FlhGの機能は失われ、運動能は低下して極に多べん毛が形成された。またFlhGの極局在は失われ、代わってFlhFの強い極局在が観察された。一方、ATPase活性化に重要とされる残基に変異(D171A)を導入すると、ATPase活性が野生型の7倍程度上昇した。この変異体はほぼ無べん毛なだけでなく運動能が強く阻害された。またFlhGの極局在が増加する一方で、FlhF極局在は低下していた。以上の結果は、ATPase活性の高いFlhGは極に移行し、FlhFを極から解離させている可能性を示唆している。ところが、触媒部位の変異(D60A)では、ATPase活性は失われるにもかかわらず、べん毛本数制御に関わる形質は野生型よりやや低下するに留まり、ある程度維持されていた。つまりFlhGのべん毛本数を負に制御する機能は、自身のATPase活性よりもATP結合能に依存していると考えられる。ATPの加水分解は、べん毛形成を1本のみに厳密に制御するために必要であり、ファインチューニングの役割を果たしているのではないかと考えている。 また、FlhFの細胞内挙動の実時間観察のため、染色体のflhF遺伝子をflhF-gfp遺伝子に置換したビブリオ菌株を作製し、FlhF-GFPの染色体レベルでの発現が可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、「1. FlhGとFlhFのATPase活性、GTPase活性がべん毛本数制御にどのように関与するか」と、「2. FlhFとFlhGの細胞内挙動とべん毛本数制御はどう関係するかを、蛍光ラベルにより実時間観察し明らかにする」という2点をテーマとしている。1つめのテーマに関しては、FlhGのATPase活性の測定に十分な精製標品の調製および活性測定の系が確立し、FlhG変異体の形質との相関を明らかにすることができた。一方でFlhFの精製・活性測定系はまだ確立できておらず、現在取り組んでいる。なおFlhGは沈殿しやすい性質があるため、ATP結合や多量体形成能を調べる実験が滞っている。現在発現・精製条件やコンストラクトの最適化を試みている。2つ目のテーマに関しては、理化学研究所の谷口雄一博士と共同研究の合意を取り付けた。極におけるFlhF分子数の計測を、理化学研究所で行う予定である。そのためのビブリオ菌株の作成を行い、染色体のflhF遺伝子をflhF-gfp遺伝子に置換することに成功し、染色体レベルでGFP融合FlhF蛋白質を発現することができるようになった。この株は野生型と同様の極べん毛運動能を示し、菌体の片極にGFP蛍光輝点を示すことがわかった。この株を用いれば、分裂中の細胞におけるFlhFの挙動を実時間観察できると期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
FlhFとFlhGの生化学的性質の解析は、2014年度半ばから鋭意取り組んでおり、今年度も引き続き力を入れる。現在FlhGが持つ凝集・沈殿しやすい性質の特徴付けを進めており、ATPase活性が高くなる変異体では、野生型に比べて多量体形成能が高いことを示す結果が出始めている。変異体を用いて、試験管内で安定なFlhGを得る試みも進めており、最終年度である今年はできるだけFlhGのヌクレオチド結合・非結合時の構造と活性の変化を解析し、関係を明らかにしたい。FlhFの精製については、封入体を可溶化し撒き戻すことで精製を行うことを考えている。精製後にはGTP加水分解能やFlhG-ATPase活性への影響など、生化学的な相互関係を明らかにしたい。一方、FlhFとFlhGの細胞内実時間観察については、理研の谷口博士との共同研究により、分子数の計測に取り組める。Venusを融合したFlhFを用いて、細胞極におけるFlhFの分子数とべん毛本数の関係を明らかにしたい。また、同じ株を用いて、FlhFの細胞内動態の実時間観察の系を起ち上げる。学内のイメージングセンターや、学外の共同研究者(理研谷口博士を含む)のアドバイスをもとに、研究室内の蛍光顕微鏡を用いてリアルタイム観察を行い、いつ、何分子のFlhFが集まるとべん毛が1本だけ形成されるのか、その瞬間を捉えたい。
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Research Products
(9 results)