2014 Fiscal Year Annual Research Report
シグナル伝達系におけるゆらぎの生成と伝搬の少数性生物学
Publicly Offered Research
Project Area | Spying minority in biological phenomena -Toward bridging dynamics between individual and ensemble processes- |
Project/Area Number |
26115722
|
Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
柴田 達夫 国立研究開発法人理化学研究所, 生命システム研究センター, チームリーダー (10359888)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 少数性 / ゆらぎ / ノイズ |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞の走化性シグナル伝達系は、外部の誘引物質のきわめてゆるやかな濃度勾配を検出し、適切に応答することができる。細胞が微弱でノイズに満ちたシグナルからどのように適切に情報を取り出せるかは生物学が取り組むべき大きな課題である。本研究では、走化性情報処理の鍵となるイノシトールリン脂質反応において生成されるノイズと、その上流から伝搬してきたノイズを解析した。このため2重レポータ・イメージングを用いた新しいノイズ計測法の確立を目指す。また反応におけるシグナルとノイズの関係を示す式として以前に提案したgain-fluctuation relationを拡張して、適応反応のようなより複雑な反応や、その時間空間的なふるまいを記述できる理論を構築する。これにより走化性シグナル伝達系がノイズにどのように対処し、また利用しているのかを明らかにするとともに、他のシグナル伝達系にもあてはまる、確率的な情報処理システムの動作原理の解明を目指している。 理論面では、適応現象のノイズと応答の関係に取り組んだ。完全な適応は、incoherent feedforward loop (iFFL)とnegative feedback loop (nFBL)の2種類のネットワーク回路によって実現されうる。今回、これらの回路に刺激を与え、それに対する応答と適応に内在するノイズをの関係を調べた。理論的および数値的な解析から、次のことが明らかになった。a) iFFLとnFBLの両方について、また適応が完全な場合と不完全な場合のいずれでも、応答の大きさは内在ノイズの大きさに制限される。b) 多くのパラメータ条件に対して、nFBLの方が一般に大きな応答を示す。一方、完全な適応を実現する上では、iFFLの方がよりロバストである。c) 適応に内在するノイズ(intrinsic noise)に比べて、環境刺激に含まれるノイズ(extrinsic noise)の影響は小さい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論的アプローチにおいては、当初の予定通り、応答適応反応を示す、incoherent feedforward loop (iFFL)とnegative feedback loop (nFBL)について、内在性のノイズおよび、上流の反応からの外因性のノイズについて明らかにすることができた。 実験面アプローチにおいては、細胞性粘菌を用いて、走化性に重要な役割を果たすイノシトールリン脂質シグナルのノイズを、2重レポータイメージングという新しいノイズの可視化手法を適用し、可視化できた。 従って、これまではおおむね順調に進んでいると言っても良い。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は実験的アプローチにおいて、2重レポータイメージングによって可視化したノイズを、数理モデルで解析することによって、PTENが細胞膜と細胞質を往復することに伴うノイズ(intrinsic noise)と、PTENの上流のシグナルで生成し伝搬するノイズ(extrinsic noise)を精密に分けて定量することを目指す。
|