2014 Fiscal Year Annual Research Report
ショウジョウバエ始原生殖細胞の転写抑制機構におけるメチオニン代謝の役割
Publicly Offered Research
Project Area | Crosstalk of transcriptional control and energy pathways by hub metabolites |
Project/Area Number |
26116730
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Research Institution | Okazaki Research Facilities, National Institutes of Natural Sciences |
Principal Investigator |
林 良樹 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 助教 (30508817)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 始原生殖細胞 / メチオニン / Sアデノシルメチオニン / ヒストンメチル化 / 転写制御 / キイロショウジョウバエ / メタボロミクス / メチオニン代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの動物種において始原生殖細胞(PGC)は抑制的なクロマチン状態、低い転写活性、そして潜在的な多能性など、発生学的に興味深い特徴をもつことが知られている。しかしこのような特徴がどのような仕組みによってPGCに与えられているのかは不明な点が多い。本研究ではショウジョウバエのPGCをモデルとして用い、ショウジョウバエPGCがもつ抑制的クロマチン状態の形成において、メチオニン代謝が果たす役割について着目して研究を行っている。平成26年度までに以下のことが明らかとなっている。 1:PGCと体細胞のメチオニン代謝状態を比較したところ、PGCにおいては体細胞に比べてメチオニンの含有量が高いこと、反対にメチオニンの1次代謝産物であるS-アデノシルメチオニン(SAM)の含有量が顕著に低いことが明らかとなった。SAMはヒストンメチル化の際のメチル基供与体として働くこと、PGCにおいては転写活性化を司るH3K4メチル化が抑制されていることを考えあわせるとPGCにおけるSAMの低下はヒストンのメチル化抑制を介して抑制的な転写状態の形成に寄与する可能性がある。 2:メチオニンをSAMに変換する過程はSam-Sと呼ばれる酵素により司られる。そこでSam-S mRNAおよびタンパク質の発現を観察したところ、共に体細胞では高く、PGCでは低いことが明らかとなった。このことはPGCにおけるSam-Sの発現抑制がSAMの低下を招いていることを強く示唆している。 3:上記2の結果をうけて、PGCにおいてSam-Sの強制発現を行い、その影響を観察した。その結果、Sam-Sを強制発現した胚においてはPGCの形態が異常となることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1:Sam-Sの発現をタンパク質レベルで解析するためにSam-Sに対する抗体を作製し、免疫化学染色を行った。その結果、Sam-S mRNAにくわえてSam-Sタンパク質についても、PGCにおいて発現が低下しているということが明らかとなった。この結果は、PGCにおけるSAMの含有量の低下は、PGCにおいてSam-Sの発現が低いためであるということを強く示唆している。またPGCにおけるH3K4メチル基転移酵素(dSet1)の発現を調べた。その結果、dSet1はPGCにおいて高いレベルで発現していることが明らかとなった。以上の結果は、PGCにおいてH3K4のメチル化が起きない原因は転移酵素が無いためではないということを強く示唆している。 2:上記1のように、PGCにおけるSam-Sの発現抑制は、PGCのメチオニン代謝状態の形成、さらにPGCにおける抑制的なクロマチン状態の形成に関与する可能性がある。そこでSam-Sを強制発現するトランスジェニック系統を作出し、PGCにおいてSam-Sの強制発現を行った。その結果、Sam-S 強制発現胚のPGCは野生型胚と比較して形態が異常となる予備的な知見を得た。この結果はPGCにおけるSam-Sの発現抑制は、PGCの形成および発生過程において重要な役割を果たしていることを示唆している。 このように、研究は概ね順調に進捗している一方で、未解決の課題を残している。まずSam-Sの強制発現によって、PGCの抑制的クロマチン状態が解除されるかどうかである。これについてはH3K4メチル化レベルの変化を中心に解析していく。またSam-Sの強制発現の表現型が、SAMの上昇によるものであるかどうかを検証する必要もある。このことはSAMの顕微注入によって同様の表現型がみられるかどうかで検証する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように26年度において進捗した点とともに、課題となる点も明らかとなっている。そこで27年度では特に以下の点に注力して研究を推進する予定である。 1:上記のようにSam-Sの強制発現によってPGCの形態が異常となる予備的な知見を得ている。そこでこの結果を確かめるとともに、PGCの発生過程における影響を解析する。またこの異常がSAMの量の上昇によるものであるかどうか、SAMを顕微注入することにより、同様の表現型がみられるかどうか調べることで検証する。 2:Sam-Sの強制発現がPGCの抑制的クロマチン状態の解除を引き起こすかどうか検証する。特にPGCにおいて抑制されていることが知られているH3K4のメチル化が変化するかどうか検証する。もしSam-Sの強制発現によってH3K4のメチル化が誘導された場合、それが転写抑制の解除につながるかどうかをRNAポリメレースIIのリン酸化度を観察することで検証する。さらにH3K4メチル化の脱抑制がPGCの形態異常を引き起こすかどうかを、Sam-Sの強制発現した胚でメチル基転移酵素の働きを阻害することで検証する。 3:上記解析によりSam-SのPGCにおける発現抑制がPGCの発生過程において重要であることが明らかとなった場合、PGCにおいてSam-Sの発現抑制を司る因子の特定を試みる。特にPGCにおけるH3K4メチル化抑制に関与することが知られるNanosタンパク質の働きが、Sam-Sの発現抑制に関与するかどうかに着目して解析を行う。
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[Journal Article] Autocrine regulation of ecdysone synthesis by β3-octopamine receptor in the prothoracic gland is essential for Drosophila metamorphosis.2015
Author(s)
Ohhara, Y., Shimada-Niwa, Y., Niwa, R., Kayashima, T., Hayashi, Y., Akagi, K., Ueda, Y., Yamakawa-Kobayashi, K., Kobayashi, S.
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Journal Title
Proc. Natl. Acad. Sci.
Volume: 112
Pages: 1452-1457
DOI
Peer Reviewed
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