2014 Fiscal Year Annual Research Report
オルガネラ化していく窒素固定細菌のゲノムリダクション
Publicly Offered Research
Project Area | "Matryoshka"-type evolution of eukaryotes |
Project/Area Number |
26117723
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
春田 伸 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (50359642)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 進化 / 微生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
真核藻類との共生によって、細菌のゲノムが変化する様子を観察し、真核生物と原核生物の共生関係成立における進化の機構を明らかにすることを目的としている。本研究では窒素固定細菌として、酸素非発生型光合成細菌または好気従属栄養性窒素固定細菌と真核藻類である緑藻の共生系を対象とした。今年度は、まず、酸素非発生型光合成細菌としてRhodopseudomonas palustrisの基準株であるATCC BAA-98株(= CGA009株)を利用し、マイクロアレイ解析により、炭素源の供給量や窒素化合物の有無による転写変化を明らかにした。 R. palustrisについて、ゲノムの広い領域をカバーできるような10対のPCRプライマーをデザインした。これらを同時に使用して、10本の異なる断片長のPCR産物が得られるMultiplex PCRの条件を決定した。これにより、ゲノムの縮退を効率的に検出する準備が整った。 R. palustris CGA009株とは培養履歴が異なるR. palustris HIR株について、ゲノム比較を行った。窒素固定関連酵素に注目したところ、CGA009株では、三つのタイプ(V-type、Fe-type、Mo-type)のニトロゲナーゼ遺伝子が検出されるのに対し、HIR株では、このうち、一つまたは二つが確認できていない。環境の選択圧によって保有遺伝子が取捨選択されている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
緑藻との共培養による窒素固定細菌のゲノムおよび性状変化を解明すべく、二者混合培養系を確立するとともに、共培養効果を評価するための評価系を確立し、基盤的知見を集積した。 窒素固定細菌としてR. palustris CGA009株を用い、共培養で想定される生育性状を明らかにした。R. palustrisの生育因子のひとつは、緑藻(Chlamydomonas reinhardtii)から供給されることが考えられた。そのため、共生によるゲノム変化として、窒素代謝だけではなく、生育因子の利用や合成に関わる遺伝子に注目することが有効であると考えられた。 R. palustris CGA009株について、カスタムマイクロアレイを作製し、培養条件の変化に伴う遺伝子転写プロファイルを決定した。緑藻からの炭素供給が限られた条件、および、窒素固定条件における特徴的な転写変化を同定した。これらの結果から、共生がもたらすゲノム変化を予想している。 R. palustrisについて、ゲノムの広い領域をカバーできるような10対のPCRプライマーをデザインした。これらを同時に使用して、10本の異なる断片長のPCR産物が得られる条件を決定した。これにより、ゲノムの縮退を効率的に検出する準備が整った。さらに、緑藻との共培養によるゲノム変化は未検出であるが、R. palustris CGA009株と窒素受用の履歴が異なると考えられるR. palustris HIR株について、イルミナ社HiSeqを用いたペアエンドシーケンス解析を行った。両者のゲノムを窒素固定に注目して比較したところ、CGA009株では、三つのタイプ(V-type、Fe-type、Mo-type)のニトロゲナーゼ遺伝子が検出されるのに対し、HIR株では、このうち、一つまたは二つが確認できていない。これは共生によってゲノム縮退が誘導される可能性を強く示唆する重要な手掛かりとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
紅色光合成細菌と緑藻の共生系を中心に、共生状態におけるゲノムの変化過程およびゲノムの変化が共生関係に与える作用を、昨年度に引き続き解析する。縮退していく遺伝子の種類、またその順を明らかにするため、共生系を長期に連続培養しながら、細胞を経時的に採取し、ゲノムサイズの減少や変異領域を決定する。見出した縮退情報をもとに変異株を作成し、緑藻と共培養して、特定の遺伝子の欠失や変異が共生系の性質に与える影響を明らかにする。 共生によるゲノム変化を同定し、その変化に含まれる遺伝子の機能を明らかにする。また、それぞれのゲノム変化の共生系に与える効果を検証するため、遺伝子変異株を作成し、遺伝子変異株を用いた共生系について、光強度・波長、明暗サイクル、二酸化炭素濃度・酸素濃度等を変更して培養し、その特性を評価する。 これらの知見およびすでに細胞内共生が進みつつある生物のゲノム情報等を統合し、エネルギーおよび物質の分配について、共生系の代謝モデルを構築する。このようにして、共生状態におけるゲノムの変化過程を明らかにするとともに、その変化が共生関係に与える作用を解明する。さらにゲノム変化が、次の進化過程に与える影響を評価し、これらのアプローチを相互補完的に進め、知見を統合していく。
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Research Products
(7 results)