2014 Fiscal Year Annual Research Report
食作用を軸としたサンゴ褐虫藻共生系のマトリョーシカ的進化基盤
Publicly Offered Research
Project Area | "Matryoshka"-type evolution of eukaryotes |
Project/Area Number |
26117731
|
Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
丸山 真一朗 基礎生物学研究所, 環境光生物学研究部門, 特別協力研究員 (50712296)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 共生 / 刺胞動物 / 褐虫藻 / 遺伝子発現解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、当初の大きな目標のうちの特に二つが大きく進展した。一つはRNA調整とトランスクリプトーム解析、in silicoでの発現パターン解析についてであり、新学術領域ゲノム支援の援助も受けることができたため、セイタカイソギンチャク・褐虫藻をモデルとした細胞内共生系における遺伝子発現解析を、イルミナ社トランスクリプトーム解析系を用いて行い、褐虫藻を共生させたイソギンチャクを異なる環境下で飼育した際に異なる発現量変動を示す遺伝子を複数同定することができた。現在、この結果を精査している段階であるが、予備的な解析では、飼育海水温度を上昇させた時の変動候補遺伝子の中には紫外線などを浴びた際のストレス応答に関わるとされる遺伝子も含まれていた。水温上昇は、イソギンチャク体内において共生関係が崩壊するきっかけとなる最も顕著な環境条件であることから、今回の遺伝子発現変動が、実際に共生崩壊が進行する初期段階の反応を表している可能性が高く、今後も詳細な検討を進めていく。もう一つはこのトランスクリプトームデータを基にしてイソギンチャクの遺伝子リストを作製し、共生が起こる際に働くと考えられるファゴサイトーシス(食作用)関連遺伝子を複数同定することができた。セイタカイソギンチャクは、サンゴ・褐虫藻共生系のモデルとして近年にわかに注目を集めているが、まだまだモデル生物としての認知度やリソース整備は遅れており、今回の解析によって世界中のコミュニティに発信できるビッグデータが将来の共生研究に活かされる日も近いと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遺伝子発現解析については、ゲノム支援からの援助を受けることができたことなどにより、予想以上の進展が見られた。特に、褐虫藻を共生させたセイタカイソギンチャクに関する解析だけでなく、培養技術の向上および新たな実験処理に関する情報交換などを経ることにより、人為的に褐虫藻を失うような処理を行って藻類との共生を行わなくなった非共生株(白化株)を作製し、それを基に遺伝子発現解析を行うことに成功した。現在次世代シーケンサを用いてcDNA配列の網羅的な解読を行っているところであり、共生株との比較により、これまで殆ど分っていなかった共生藻類による宿主刺胞動物への影響を遺伝子レベルで解析するための基盤を開発することができたと期待している。食作用に関する細胞構造の観察については、食胞構造の安定的な固定と可視化するためのプローブ開発などが技術的に困難であり、やや難航しているが、本年度より異動のため所属変更があったのを機に、新たに他の研究者との交流や情報交換を活発に行うことにより、問題を克服していけるものと期待している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず遺伝子発現解析および分子系統解析など、バイオインフォマティクスを中心とした解析を完了させ、論文投稿へとつなげていくことを第一義に考えていく。また蛍光顕微鏡などを用いた遺伝子産物の局在解析も合わせて準備していき、セイタカイソギンチャクだけでなく他の刺胞動物や原生生物など視野を広げて食作用という共通機能に関連する構造を観察できるよう検討していきたい。
|